(※写真はイメージです/PIXTA)

高度経済成長期から造成が始まった「ニュータウン」は、全国に2,000ヵ所以上存在し、現在もなお増加を続けています。近い将来、このニュータウンの至るところで発生する「二次相続」が社会問題となるかもしれません。不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏の著書『負動産地獄 その相続は重荷です』より、詳しく見ていきましょう。

利用価値を失いつつあるニュータウンの実態

相続が発生したAさん宅は、敷地面積80坪に延床面積32坪の住宅が建っています。2人のお子さんたちはすでに独立され、家では奥様と2人暮らしでした。

 

さて相続税評価額がどうなるかといえば、路線価単価は1m2当たり7万5,600円、坪に直すと25万円です。80坪の敷地ですから相続税評価額は2,000万円になります。建物は固定資産税評価額で500万円。合計2,500万円。

 

Aさんには家のほか現預金や有価証券で5,000万円ほどの資産があり、奥様と2人のお子さんの基礎控除額合計である4,800万円(3,000万円+600万円×3人)を超えてしまいます。

 

しかしながら、遺産総額は配偶者控除1億6,000万円の範囲に収まりますし、自宅はこのまま奥様が暮らすので小規模宅地等の特例で敷地の評価は評価額の2割、つまり400万円に減額されます。とりあえずの相続にあたっては少なくとも課税の心配はありませんでした。

 

ところがAさんの亡くなった数年後に、奥様が亡くなり二次相続が発生しました。相続税評価額は総額7,000万円になっていましたが、この段階では配偶者控除も小規模宅地等の特例(被相続人と相続人が同居していないと適用されません)も適用されないため、約320万円もの税負担を余儀なくされました。

 

さてAさんの息子さんもすでに還暦。自分の家は都内に構えているものの、まだ住宅ローン返済が残っています。その状況での相続税支払いは全くの想定外でした。さらに残されたニュータウン内の家の管理をしなければなりません。妹は九州に嫁いだため、家の管理に参加はできません。隔週で自ら実家に出向き、通風や通水、掃除をします。

 

この程度ならまだしも家の中は家財道具の山。どうしてこんなにモノをため込むのかとため息をついても、張本人である両親はすでにいません。少しずつ片づけるものの還暦を過ぎた身体には結構な重労働です。夏はちょっと目を離したすきに、広めの庭の草木は生い茂り、勝手口に置いていた物置にはハクビシンが棲みつく、軒下には足長バチが巣を作るなど散々です。

 

そこで妹とも相談の上、自分たちの育った家ではあるものの、この先利用するアテもないことから売りに出すことにしました。ところが不動産屋の返事はつれないものでした。平成バブル時代には新築であれば1億円台を付けたはずなのに査定額はなんと1,800万円程度。路線価評価額以下です。

 

不動産屋曰く、最寄り駅までバスで20分。バスも減便されて日中は1時間1本。都心まではさらに1時間以上かかる。エリア内の小学校もすでに統合されて、通学にも支障が出て小さな子を連れたファミリーには人気がない。ニュータウン内にあったスーパーも住民の高齢化とともに撤退。1,800万円でも売れるかどうかは全くわからない、とのこと。実際に売りに出してはみたものの、半年たっても問い合わせがありません。

 

賃貸も考えてはみたものの、これらの条件下ではさらに需要がないことは明白です。「売れない」「貸せない」「自分も住む予定がない」。この三重苦の家の扱いに途方に暮れるのがAさん宅のニュータウン相続です。

 

Aさんのケースはまだよいほうです。売れていないとはいえ査定額は1,800万円。都心まで遠いとはいえ、横浜市内へのアクセスは確保されています。市内に勤めていて通勤が車利用であればまだ売れる可能性があります。首都圏ではすでに価格査定すら困難になったニュータウンが続出しています。

 

では買い手も借り手もいない、利用価値を失ってしまった「負動産」や「腐動産」をこの先どう扱っていけばよいのでしょうか。車や電気製品などの動産であれば、捨てることができます。ところが不動産は手放すことができず、手放せない限り永遠にお付き合いを続けていかなければならない存在なのです。

 

Aさん宅の実情は残酷です。翌年5月、Aさんの息子さんに届けられたのは実家の固定資産税通知書でした。年間の固定資産税は15万円。使いもしない不動産を管理する苦痛に加えて毎年税金を払わなければならないのです。

 

管理が面倒だからと言って家を解体撤去すれば、小規模宅地に適用されている固定資産税の減額(固定資産税が6分の1、都市計画税が3分の1)がなくなります。税負担は数倍に膨れ上がるので必死に残された家を管理しなければなりません。そして管理を続けられずに放置し、自治体から特定空き家として指導、勧告を受けるようになれば、最悪、小規模宅地等の特例を剝奪される可能性があります。

 

こうなるともはやニュータウンに残された不動産は、資産ではなく負債以外の何物でもなくなります。そしてニュータウン相続は一次相続を経て、これからいよいよ二次相続が本番を迎えます。全国2,000ヵ所のニュータウンで相続した家で、途方に暮れる人たちが続出するのは、もうすぐのことなのです。

 

 

牧野 知弘

 

オラガ総研 代表取締役

 

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※本連載は、牧野知弘氏の書籍『負動産地獄 その相続は重荷です』(文藝春秋)より一部を抜粋・再編集したものです。

負動産地獄 その相続は重荷です

負動産地獄 その相続は重荷です

牧野 知弘

文藝春秋

資産を巡るバトルでも相続税対策でもない。 親が遺した「いらない不動産」に悩まされる新・相続問題が多発! 戦後三世代が経過していく中、不動産に対する価値観が激変。 これまでは相続財産の中でも価値が高いはずだった…

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