「算数」の段階では苦手意識を持っていたが…
私の得意科目は数学です。浪人時代の終わり頃には、「受験で出される範囲の問題なら、時間制限がなければ全部解ける」というくらい自信をもっていました。実際に、東大入試では6問中2問解ければ合格と言われる中で、5問半解くことができたのです。
大学に入ってからも、大鬼と呼ばれる教授が作成した超難解なテストで、クラス内の女子はたった2人しか合格しなかったのに、そのうちのひとりになりました。
しかし、最初に数学でつまずいたのは、高校でも中学でもなく、もっと早い小学生のとき。数学ではなく、算数の段階です。つまり、生まれもった才能で見れば、数学はできない方でした。今でもはっきり覚えています。
「100円のリンゴを20%引きで買うと80円です。これをひとつの式で表してみましょう」という問題でした。先生が黒板に書いた「100円×0.2=20円、100円ー20円=80円」という数式を凝視しながら、どうしたらこの2つが合体するのかと頭をフル回転させてひたすら考えましたが、いくら考えても思いつきません。
100%から20%を引いた80%を掛けて、「100円×0.8=80円」と、今では頭の中であっさり解けてしまいますが、当時の私にとってはとんでもない難問だったのです。考えている途中でチャイムが鳴ると、先生は「次の授業までに考えてきてね」と宿題にしました。
「ワクワクする気持ち」で問題に取り組む
私は家に帰り、居間の机にノートを広げて母親にこの問題を伝えました。母親は、問題を見てもヒントを教えてはくれず、「どうすると解けるのか、わかったらお母さんにも教えてね」と言いました。長時間、机に向き合い、数式を何回も書いてひたすら考えました。そしてふと、離れていた脳の神経がピタッとつながったような感じを覚え、「そうか!20%引きってことは、残りの値段は80%っていうことだ!」とわかったのです。
今でも問題の内容と脳の感覚を思い出せるのは、解けたときの感動があまりに大きかったからだと思います。考えている最中は、「みんなより早く解いてやる」「解けたらお母さんに『すごい』って言われるかな」というような、なぞなぞを解くようなワクワクする気持ちで、勉強しているという意識はまったくありませんでした。
そして母親に得意気に説明したとき、期待していた通り「よくわかったねえ」と、褒めてもらったのを覚えています。