「シルク・ドゥ・ソレイユ」の舞台に立った友人
私が「この人はすごい『変動タイプ』だ!」と思うのは、薬学部時代の友人で、現在カナダを拠点にジャグリング(ボールを操る大道芸のようなもの)を生業にしている山積君です。
彼は東大薬学部を卒業した後、ジャグリングをやりたいと単身カナダに飛び立ち、日々修業を積んで世界中のショーに出場しています。世界トップクラスのサーカス「シルク・ドゥ・ソレイユ」にも出演しました。
人問、挫折したときにはちょっとは落ち込んだりするものですが、彼が「難しいかもしれない」とか「無理だと思う」といったネガティブな発言をするのを一度も聞いたことがありません。山積君自身に対しても、他人に対しても、です。
今でこそがっちりした筋肉をもつ彼ですが、もともとは身体が弱かったと言っていました。だからこそ、ジャグリングをやっている人を見て魅力を感じ、自分も挑戦してみたいと思うようになったそうです。
当然、親族は反対しました。父親は不安定な職業であることを見越して、「何か資格をとったら許す」と言ったそうです。ジャグリングをやるために、彼は東大に合格し、進学振り分けのテストで高得点をとって薬学部に入り、薬剤師試験にも受かったのです。そして、卒業とほぼ同時にシルク・ドゥ・ソレイユがあるサーカスの本場、カナダに旅立ちました。フランス語が話せるわけでも、誰か知り合いがいたわけでもないのです。
私だったら、まず語学がわからないと何もできないと考え、日本で半年ぐらいかけて語学勉強をしてしまいそうですが、彼は「向こうに行けば自然と覚えるよ」と言いました。実際その通りで、今ではもうフランス語がベラベラで、逆に日本語を忘れかけているそうです。
言い訳ばかりして挑戦しない「固定タイプ」の人
ここまですべてにおいて「やれる」と信じ、実現させる行動力があるのは、純粋にすごいと感心します。私が考えたように「まずはフランス語を勉強しなくては」と日本に残り、そのままずっと語学にこだわって結局はカナダに行かないで終わってしまうような例は、わりと多いと思います。
「やりたい」と思っていながら、いつまでも行動に移さないで終わってしまうケースです。彼にとって言語が通じないことなど、瑣末(さまつ)な問題だったのでしょう。確かに、優先順位を考えれば、最も重要なのはジャグリングの技術を上げることで、不自由なく生活できるよう上手に人と話すことではないのです。
身振り手振りを使った不格好な言葉で恥をかくことがあっても、最低限生きていくための会話ができればいいのです(実際、彼は牛乳と間違えてコーヒーのミルクを飲んだことがあるそうです)。
「固定タイプ」の人は、能力に向き合うのが恐くて言い訳ばかりします。「まだ語学の勉強が終わっていないから」と言って日本を離れないのは、突き詰めれば、自信のなさから挑戦を先延ばしにしたい気持ちの表れです。他にも、「運動神経がないから」「練習不足だから」「もう年だから」などと理由をつけて挑戦しない人たちがいます。
運動神経がないからこそ、もっと運動すればいいのです。練習不足だからこそ、経験を積む必要があるのです。「年だから」という言葉は、人生で今日より若い日はもうないわけですから、「自分にはもう一生無理」という言葉と同義語になってしまいます。
山積君は、他人に話したら「無理だよ」と言われる数多くのことを「できる」と言ってやってきました。「東大に入ること」「薬学部に入ること」「カナダであてもないのにジャグリングで生きていくこと」、そして「シルク・ドゥ・ソレイユに出ること」。彼は以前、「日本にいたとき、周囲の人はまず否定ばかりした」と言っていました。ただ、彼の母親はいつも味方をしてくれたと、よく嬉しそうに話していました。
彼の「変動タイプ」のメンタルセットは、母親のおかげで断固たる強いものになったのだと思います。そう考えると、周囲はどうあれ、親が応援してあげられれば、素晴らしいメンタルセットをもてるようになるのだと言えます。