なぜ自分は「平均より上」だと思ってしまうのか
この「平均より上」という評価が勘違いであることが、もっとも明らかになる調査結果がある。それは、ほとんどの人が、自分は平均よりもバイアスが少ないと考えているということだ。
この点については、プリンストン大学で心理学を教えるエミリー・プロニンが詳しい研究を行っている。研究の中で、プロニン博士は、バイアスについての一般的な説明文を被験者に読んでもらっている。たとえば次のような説明だ。
心理学の研究によると、学力や仕事の能力を自己評価するとき、たいていの人は自分の利益になるような考え方をするという。つまりどういうことかというと、成功した場合は自分の手柄だと考え、失敗した場合は自分のせいではないと考えるということだ。成功すると、自分の能力が高かったから、または努力したからなどと考え、逆に失敗すると、上司が自分にふさわしくない仕事をやらせたからだ、先生の教え方が悪かったからだなどと考え、外側の要因に責任を転嫁する。
説明を読んだ被験者は、今度は自分がこれにどれくらい当てはまるかを考える。たいていの人に当てはまるバイアスだといわれていても、被験者の大部分は、アメリカ人の平均に比べて自分はバイアスが少ないと答えるという。
プロニン博士はこの結果を受けて、次のように結論しているーたとえバイアスの存在を知っていて、そのバイアスがたいていの人に当てはまるということまで知っていても、自分もまたそのバイアスの影響を受けていると自覚できるわけではない。
実際に、実験の被験者たちは、たとえバイアスについての説明を受けていても、自分の能力を評価するときも、またはある特定の成功や失敗の要因を考えるときも、自分にバイアスがあることを認めようとはしなかった。
この「平均より上」というバイアスが勘違いであることは、実力を客観的に評価するとよりはっきりする。
私は同僚と共同で、能力に対する自己評価と客観的な評価の関係について大規模な調査を行った。調査の方法はごく単純だ。被験者は、自分の能力(知能指数、創造性、数学能力、社交スキルなど)が平均と比べてどれくらいか自己評価する。
たとえばIQを評価してもらう場合、平均は100であり、頭のいい人は115、かなり頭のいい人は130、そして145になると天才レベルだと事前に説明しておく。そして自己評価が終わったら、今度は実際にIQテストを受けてもらう。
たいていの被験者は自分を平均より上だと評価するが、自己評価と実際のテストの結果の相関係数は0.2未満になる。つまり、自分の能力を正しく評価できている人はほとんどいないということだ。
トマス・チャモロ=プリミュージク
社会心理学者/大学教授
ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン教授
コロンビア大学教授
マンパワーグループのチーフ・
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