「新しいやり方についてくる人だけでいい」
「どんぶり勘定の経営」から、「日立式の経営スタイル」に変えたことで当然、社内からは反発がありました。
私が引き継いだタイミングでいた社員は、父について来た人がほとんどで、その中には新しいやり方になじめない人がいたのです。
相手の気持ちを考えてみれば確かにそうかもしれません。社長の息子とはいえ自分の息子と歳も変わらない若造が急にトップになって「やり方を変える」と言うのですから、いい気分はしなかったでしょう。 しかし、私はそういう人たちを巻き込もうとするのではなく、あえてどうするかを判断させることにしました。要するに「辞めたいなら辞めてもらって構わない」と伝えました。
私は引き継ぐタイミングで父に「任せてもらう以上は、好きにさせてもらう」と伝えていました。父も「それで構わない」と一切の相談をしない約束をしました。決して仲が悪かったわけではありませんし、仕事以外の話はよくしましたが、仕事に関してはすべて自分の好きにさせてもらう約束をしたのです。
今の自分の立場で考えると「よくこんな若造に任せたな」と思いますが、それでも任せてもらったことは良かったと思っています。零細企業だった当時の九昭にとってはトップダウンの経営スタイルが必要だったからです。
今までのやり方では通じず、新しいやり方にしなければ売上が伸びない。トップは私で、私は新しいやり方を持って帰ってきた。そのやり方についてくる人だけで会社を経営しようと考えました。
結果、幹部社員たちは辞めていきました。しかし、中には私の考え方に賛同してくれる社員もいました。その多くが若手社員たち(といっても私より年上でした)で、受注から施工をして管理の仕方の流れを説明して「やってみましょう」という人たちだけを集めて勉強会を開き続け、会社を変えていきました。
加えて、儲からない会社との取引もやめていきました。 工数ばかりがかかって結局、利益や現預金が残らないのでは会社は回りません。中には「申し訳ないが、儲からないので手を引きます」と言ったこともあります。このときも父に相談するようなことはなく、トップダウンで判断していきました。もしも相談をしていたら、古くからの付き合い(人間関係)で「もう少しやれ」と言われていたと思います。
小さな会社を軌道に乗せるためにはトップダウンしかないです。売上3億円くらいの規模になるまでは、トップダウンでないと大きくなれない、と考えていました。
さらに、相談することで物事が止まるとも考えました。失敗してもいいから即断・即決で物事を運び、即行動をする。それで失敗したら反省して他の方法を考えてまた即断・即決・即行で動く。「止まったら負け」とさえ思っていました。そんなときに相談でいちいち立ち止まるのは時間のムダとさえ考えたのです。
辞めていく人材を引き留めず、儲からない取引先と取引をやめることで、当然ですが会社は弱体化します。その穴を埋めるのは経営者です。私は新しい営業先を必死で取っていきました。
電気工事業のような業態は、主に公共工事と民間工事の2本柱です。県、市、周辺の市町村の仕事を積極的に取り、並行して民間工事も私が率先して取りに行きました。営業社員には任せず私がフロントに立ったのです。
当時は私が社内のトップ営業マンであり、現場の担当であり、銀行との窓口でもありました。父親から引き継いだ会社を潰すわけにはいきませんでしたし、私が会社を潰したら社員が路頭に迷ってしまいます。そうならないための責任感もあったのです。
(株)九昭ホールディングス代表取締役
池上 秀一
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