自身の蓄えを顧みない、節税目的の不動産購入は危険
「不動産のワケあり化」が進行する昨今では、そのワケあり状態を解消・予防し、いかにして資産価値を毀損させず後世に残すかという視点が必要です。その視点からの具体的な対策については、連載「ワケあり不動産の相続対策」でも詳しく述べてきました。
その中では、「修繕を行うことで、収益性の高い賃貸不動産にする」という選択肢や「1つしかない不動産を分割できるように準備しておく」ことなど、相続人に残すことを前提とした対策案を考えてきました。
しかし、相続人にどのように残すか、そのためにどう節税するかということだけを考えていればいいのかと言いますと、筆者はそうは思いません。
もう1つ大事なこととして見過ごせないのは、「自身のこれからの生活」について考えるという視点です。つまり、自身もしくはその配偶者の老後の生活と資金づくりについても、「ワケあり不動産」の対策の前に、もしくは同時に、考えていかなければならないのです。
自身の老後を考える視点をおろそかにしていては、相続を成功させるための努力は意味を成しません。しかし、平成27年1月1日からの増税のこともあり、今は誰もが節税ばかりに注目しているような状況です。
相続税対策のための賃貸不動産選びを進めているような資産家はたくさんいらっしゃると思いますが、本来であれば、節税策の前に老後の資金を考えることが必要な人たちも多いはずです。
例えば、節税のことを最優先に考えて賃貸不動産の購入をしたとします。銀行から借り入れしている場合、もし賃料収入からその返済ができなければ、自らの懐からお金を手配することになります。そのようになってしまうと、あったはずの老後の資金がいつの間にかごっそりなくなってしまったということにもなりかねません。
老後の資金がなくなってしまうと、後は子に頼るしかなくなってきます。そもそも相続税を支払うことになる子などの相続人のために行ってきた対策であるはずなのに、結局老後の生活資金を子に頼るというのでは意味がありません。
また、不動産選びに時間をかけることによって、もしくは懸命な勉強によって、相応の賃料収入を得られる賃貸不動産を購入できたとします。経営も軌道に乗っていれば、自身の財産が減ることはありません。
ただし、現金で賃貸不動産を購入しているとすれば、まとまった額の現金はすでに支払ってしまっているので、老後に必要な資金の捻出は、その賃貸不動産の賃料収入頼みとなります。老後のために、経営が順調にいくように一層努力していかなければなりません。
一方で、銀行からの借り入れで賃貸不動産を購入している場合、現金は手元に残っている状態なので老後の資金のめどは立つかもしれません。しかし、借り入れはずっと残ります。被相続人が生きている間はもちろんのこと、亡くなった後も残りますので、当然のことながら相続人の誰かが引き継ぐことになります。
そのまま安定的な賃料収入が得られていれば問題はありませんが、先々のことまでは誰にもわかりません。相続発生後に売却という選択肢もありますが、売却して、残債が返済できる保証はありません。
大資産家のような人で、老後の資金を考える必要もないほど潤沢な資産をお持ちの人であれば、賃貸不動産の購入で失敗をしても、子に迷惑をかけることはないかもしれません。
しかし、平成27年からの増税では、課税対象者の増加が見込まれています。つまり、今まで課税対象になっていた人たちよりも資産が少ない人たちも相続税の対象となってくるのです。
老後の資金の蓄えのない人が、軽はずみな賃貸不動産の購入などの相続税対策に走ってしまうと、老後に取り返しのつかないような問題が起こってしまうのです。
老後の生活資金を確保した上で相続税対策を行うべき
賃貸不動産などに投資をする前に、自身の今後の生活のことを考えてみてください。節税策を考えるのは、自身の老後の生活のことを考えた後です。老後の生活資金を確保した後でそれを差し引いて、それでも余った財産に対して多くの相続税がかかりそうであれば、そこで初めて相続税対策を考えていけばいいと思います。
老後の資金づくりや資産運用で迷ったら、ぜひ専門家に相談してみてください。例えば、税理士などは税金の専門家であって「節税の相談しかできない」と思われている人もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。
むしろ、資産をどのように活用していくか、というところこそ税理士に相談すべきことだと考えます。敷居が高いと思わずに、まずは相談してみるというスタンスで考えていいと思います。