収益が上がらない賃貸物件といった「ワケありの不動産」に困っている人は少なくありません。この連載では、問題の起こりやすいケースを例に挙げながら、具体的な対処方法について解説していきます。

安易な節税対策がワケあり不動産を生む?

相続評価の際、土地は更地の状態が最も評価が高くなるため、相続税対策としては、何か建物を建てて評価減を図るのが一般的です。賃貸アパートや賃貸マンション、テナントビルなどが建つ土地は、貸家建付地として更地に比べて2割前後の評価になります。また、建物部分は固定資産税評価額で評価されるため、建築費用の6割前後になります。

 

しかし、収益性や立地などを十分に検討することなく安易な気持ちで賃貸不動産を建てた場合、しばしばそれがワケあり不動産化してしまうことがあります。例えば、「別にアパート経営をしたいわけではないが、更地のままでは損をするようだから、とりあえず賃貸不動産を建ててしまえ」というような場合を考えていきましょう。

 

このような場合、賃貸不動産を建てたこと自体に満足してしまい、その後の経営がおざなりになりがちです。「これで節税はできた。ひと安心だ」と思ってしまうためです。

 

そういった人の場合、アパートを建てた当初はそれなりに入居者もいて、毎月の賃料収入が確保できていたとしても、5年、10年と経つうちに空き室がちらほら出るようになり、20年経つ頃にはほとんどが空き室・・・となるおそれがあることまでは考えられていません。

 

また、建物というのは建てた瞬間から価値が下がっていく、劣化していく、といったことも意識できていません。建物のデザインや設備が、時代のニーズに合わなくなったりもします。さらに近隣地域で開発があって大きな道路ができたり、大型スーパーや娯楽施設が建ったりすると、人はそちらに流れていきます。

時代遅れの物件には魅力も競争力もなし

借り手の心理とすれば、少し多めに家賃を払ってでも駅に近いところを借りたいと思いますし、古いより新しい部屋に住みたい、また、トレンドに合ったデザインや最新の設備が整っている物件のほうに魅力を感じるのは当然です。つまり、時代遅れの物件には競争力がないのです。

 

このままワケありの賃貸不動産を持っていても収益は落ちる一方です。にもかかわらず、毎年の固定資産税はかかってきますし、相続税も更地よりは低いと言ってもゼロではありません。こんな不良不動産を残して亡くなってしまったら、後々家族に迷惑がかかってしまいます。

 

どうしたものかと悩んで不動産業者やメンテナンス会社に相談すると、おそらく提案されるのは物件の修繕や建て替えでしょう。例えば、「最近人気のマンションには、たいていエコ設備が入っています。この建物も思いきってリニューアルしませんか? そうすれば、また前みたいに入居者が来ますよ」というように。

 

ところが、問題はその修繕費や改築費用です。一棟丸ごととなると、一部を修繕するだけでも結構な額になります。競争力を取り戻せるくらいの大掛かりな修繕となれば、改築するのと大差ない額になるに違いありません。ただでさえ収益性が落ちて〝お荷物〞になっている物件に、さらに修繕費が追い打ちをかける状態となってしまうのです。

本連載は、2013年12月2日刊行の書籍『ワケあり不動産の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ワケあり不動産の相続対策

ワケあり不動産の相続対策

倉持 公一郎

幻冬舎メディアコンサルティング

ワケあり不動産を持っていると相続は必ずこじれる。 相続はその人が築いてきた財産を引き継ぐ手続きであり、その人の一生を精算する機会でもあります。 にもかかわらず、相続人同士が財産を奪い合うといったこじれた相続は後…

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