「バブル」とは、「だれもが知るバブル」のほかにもう1種類…
「バブル」には2種類あります。「だれもがバブルだと知っているバブル」と「バブルかどうかわからないうちに拡大していくバブル」です。昔のバブルは前者が多く、最近のバブルは後者が多くなっています。
世界最初のバブルは、17世紀オランダの「チューリップ・バブル」だといわれています。チューリップの球根が現在の貨幣価値で数千万円になったようですから、明らかに前者のバブルでした。しかし、バブルに踊った人々が愚かだったかといえば、そうともいえません。「9割の確率で明日は値段が2倍になる」と思えば、買うことが合理的だからです。
別のバブルでは、1720年のイギリスで起こった投機バブルでニュートンが大損をしたことが知られていますが、それはニュートンが愚かだったからではなく、運が悪かったからでしょう。確率的には儲かる賭けでも不運なら損をする、ということですね。
「バブルか、否か」…論争が続く間に拡大するのが、最近の傾向
もっとも、最近ではそうしたバブルはあまり見かけません。政府日銀が「バブルが膨らんでから破裂すると経済への悪影響が大きいから、早めに潰してしまおう」と考えるからです。もしかするとビットコインは稀な例外かもしれませんが。
最近のバブルは「バブルか否か論争」が続いている間に拡大します。「現在がバブルであるか否かは、将来バブルが潰れたときにはっきりする」といわれるゆえんです。
平成バブルも、いまから考えれば株価や不動産価格が明らかに高すぎたわけですが、当時は「これはバブルではない」と考えていた人が大勢いました。当時の日本はプラザ合意後の大幅な円高だったにもかかわらず、輸出はそれほど落ち込まず、「日本製品は品質がよいので高くても買いたい」と世界中からいわれていたので、「日本経済は素晴らしい。株価や地価が上がるのは当然だ」と浮かれている人が多かったのです。
実際、日本経済を動かしている賢い人々のなかにも、住宅ローンを借りて自宅を購入した人が大勢いました。もしも彼らがバブルだと考えていたなら、(短期売買で株式取引をすることはあっても)自宅を買うことはなかったはずです。バブルが崩壊するまで待って、暴落した価格で買えばいいからです。
そのような状況では、政府日銀はバブルを潰すことができません。バブルか否かの論争が続いている間にバブルが拡大し、それが崩壊して日本経済に大きな爪痕を残したことは大変残念なことでした。
バブルを潰そうと考えた人もいたようですが、政府日銀のなかにも「バブルではない」という人がいるくらいですから、政府日銀が「バブルかもしれないから早めに潰しておく」などといったら、バブルに踊っている投資家等から激しい批判を受けたでしょう。
投資家だけでなく、株高で儲かった人が贅沢をしたおかげで景気が大変よかったので、バブルを潰して景気を悪くすると一般経済人からも非難轟々となったかもしれません。
最後は政府日銀がバブルを潰したわけですが、そのときにはしっかり口実を考えていました。「不動産価格が上がりすぎて、サラリーマンが自宅を持てない状況である。これは望ましくないので、サラリーマンが自宅を買えるようになるまで不動産価格を押し下げる」というものです。
次のバブルには、銀行による「バブル抑止の力」が働くかも
このように、近年のバブルは政府日銀にバブル潰しを期待することがむずかしいわけですが、それでも筆者は、次のバブルのときにはバブルを抑止する力が働くかもしれないと期待しています。それは、銀行が貸出に慎重になることです。
バブルのときには、銀行から借金をして土地を買う人が大勢います。彼らは「もしもいまがバブルでないなら、大儲けが狙える。バブルなら、大損して破産するかもしれないが、賭けてみよう」と考えるわけですから、ある意味で合理的です。金を借りるのが会社であれば、会社が倒産しても自分が破産するわけではありませんから、ますます合理的ですね。
しかし、銀行は違います。
「もしいまがバブルでないなら、借り手は大儲けできるだろうが、銀行が儲かるのは利子だけだ」
↓
「いまがもしバブルなら、借り手が倒産するので銀行は貸出元本を失うことになる」
↓
「それなら、貸すのはやめておこう」
このように考える余地があるのです。銀行が冷静に考えれば「勝てば借り手の勝ち、負ければ借り手と銀行の負け」という賭けなのですから、貸すべきではないでしょう。
当時の銀行は、高度成長期の名残から猛烈な規模拡大競争を繰り広げていました。そこで、「危険だからといって貸さないと、ライバルに負けてしまう」という危機感が、冷静な判断を鈍らせていたのだろう、と筆者は考えています。そうであれば、次のバブルのときには、銀行は冷静に「貸さない」という判断をして、バブルの拡大を抑制してくれるだろうと期待している次第です。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
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