レストラン経営を理解するポイント…「固定費」と「変動費」
レストランの経営を考える際には、コストを「固定費」と「変動費」に分けて考えると便利です。固定費というのは、客が1人も来ないときの赤字額のことで、店を借りる費用、従業員の給料等々です。変動費というのは、客が来ると増える費用のことで、レストランの場合には材料費のことです。
いま、固定費10万円のレストランが1,500円の定食を提供しているとしましょう。変動費は500円とします。客が来ないと10万円の赤字ですが、客が1人くると収入が1,500円増え、コストが500円増えるので赤字が1,000円減ります。客が100人くれば赤字が消え、それ以上来れば黒字になる、という計算です。
このレストランが食べ放題を始めたところ、入場料を3,000円払って大食いの客が来店し、3人前食べたとします。店の収入は3,000円増える一方でコストは1,500円しか増えないので、赤字が1,500円減るのです。大食い客としては4,500円分の食事を3,000円で味わえて満足でしょうが、店としては3人前食べる客が来ても材料費は1,500円しかかからないので、儲かるのです。
食べ放題の客が70人来れば赤字が消えるのですが、食べ放題の店は人気があるので普通のレストランより客数が多くなりやすく、そうなればさらに儲かるかもしれません。空席は固定費がかかるだけですから、空席が減ると収益は大きく改善するのです。
レストラン経営者、ホクホク…「ビュッフェスタイル」のメリット
食べ放題の店のなかには、店の中央に大量の料理を置いて、客が自由に取って食べる、という形式もあります。「ビュッフェスタイル」と呼ばれるこの方式には、さらに多くのメリットがあります。
まず、注文を聞いたり、料理を皿に盛りつけたり、客席まで届けたりする手間がかかりません。これは人件費の節約になりますし、ミスが減るというメリットもあるでしょう。
また、客が来店してから直ちに食べ始めるので短時間で満腹になり、客席の回転率が上がります。同じ固定費で多くの客が来れば、収益への効果は絶大です。
コックの労働力の有効活用という観点からのメリットもあります。普通のレストランでは注文を受けてから作るので、注文が入ったときだけ、コックは猛烈に忙しく、他の時間は暇だ、ということもありえますが、ビュッフェスタイルの店ではコックが自分で何を作るか決めるので、朝から作業に入れます。
コックの作業効率としても、1人前作るのと20人前作るので手間が20倍かかるわけではありませんから、効率的な作業が可能となります。規模の経済ですね。
材料の仕入れという面のメリットも大きいかもしれません。普通の店では客がなにを頼むかわからないので、メニューに載っている料理を作るために必要な材料はすべて仕入れておく必要があり、無駄が生じやすいのですが、ビュッフェスタイルの店は作るものをコックが決めて、必要な材料だけを仕入れるので無駄が生じにくいのです。もしかすると、少品種の材料を大量に仕入れることで値引き交渉も可能になるかもしれません。
このように、食べ放題の店は経営面のメリットが大きいのです。客も満足、店も満足というWin− Winの関係なのですね。
食べ放題の店に行く人へ、経済学的な視点からアドバイス
最後に余談ですが、食べ放題の店に行く際の客の心得を記しておきましょう。それは「無理をしてまで食べるべからず」です。食べ放題の店に行くと、「元をとらなければ」という強迫観念から無理をして食べている人、「元はとったけれど、好きなだけ食べていいのだから、食べないともったいない」と考えて無理に食べている人などをみかけます。しかし、それはやめておきましょう。
元をとったら入場料を返してあげる、という店であれば、元をとるために頑張ることも合理的なのでしょうが、食べ放題の店では入り口で支払った金は返って来ません。そうであれば、払った金のことは忘れて、いまから自分がいちばん幸せになるように食べるものと量を決めればいいのです。
このように、払ってしまって戻って来ない金のことをサンクコストと呼びます。サンキューのサンクではなく「沈んでしまった」という意味の英単語です。サンクコストのことは忘れて、今後の幸せだけを考えよう、というのは重要なことです。
たとえば、買った本が最初の数ページでつまらないと判明したとき、買った代金がもったいないと考えて最後まで読む人もいるでしょうが、結果的に買った代金と読んだ時間の両方が無駄になるだけでしょう。それなら「本を読み続けるのと散歩に行くのと、どちらが幸せか」だけを考えればよいのです。
なかには「食べ放題の店を選んだ自分が愚かだったと思いたくないから、元をとらねば」と考える人もいるでしょうが、自分自身に見栄を張るために苦しい思いをするのは、お勧めできませんよ。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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