港区のパワーカップルが「貧困母子家庭」に陥った経緯
日本のひとり親世帯の相対的貧困率は、直近の2021年で44.5%、およそ2~3世帯のうち1世帯の割合です(参照:厚労省「国民生活基礎調査」Ⅱ 各種世帯の所得等の状況)。ひとり親家庭は貧困に陥りやすい傾向にあります。
今回お話を伺った港区母子さん(仮名)は、養育費なし、生活保護なし、非正規雇用のひとり親世帯です。両親のサポートは受けられない環境にあり、完全にワンオペ育児のため、子どもが体調を崩したときは仕事を休まざるを得ず、休んだ分の収入は入ってきません。
港区母子さんは子どもを産むまで順調なキャリアを積んできました。かつての年収は夫婦合わせて1,000万円以上、現代のパワーカップルです。経済的にゆとりある生活から、現在の状況に至った経緯を聞きました。
Q まず、港区に住むようになったきっかけは?
「数年前まで結婚していた、元夫が経営する会社が港区にあります。彼は名古屋出身ですが、戸籍が港区。実際に数十年間住んでいます。結婚したときにその会社の近くに新居を構えました。現在はそこから数駅離れた、港区内のアパートに住んでいます」
Q 離婚のきっかけは?
「元夫の度重なるDVとモラルハラスメントが原因です。夫はキレると感情を抑えることができず……暴言を浴びせながら殴りかかってきました。結婚前にはまったくそんな素振りがなかったので、驚きました……。
暴力では気が収まらないとなると、私と未就学児の子どもは家から閉め出され、夜の街に放り出されます。
夜道を彷徨い、近所に唯一Wi-Fiの通る公園を見つけたんです……! その公園から港区の相談窓口に連絡をとりました。港区は子育て支援は手厚いですが、一方でDVシェルターへの避難は要件が厳しく、仕事をもっている私は対象外で入れませんでした。親子でホームレスになってしまい、途方に暮れましたね……」
親子でホームレスになったときは、どうされたのですか?
「警察に相談すると『ホテルに泊まってください』と言われます……。その場でスマホから予約を取るよう促され、ホテルへ送迎されます。その後数ヵ月間は、安否確認の電話がきますね。
連日となると、ホテル暮らしはコストがかさむのでネットカフェに泊まったり……。でもネットカフェは子どもの泣き声が迷惑になるので、そういうときには2段ベットのひと区間だけで過ごすシェアルームに泊まっていました。
その他、カラオケボックスのオールプランで格安のものをリスト化して、いつでも駆け込めるようにしていました。運よく知人と電話が繋がったときは、電話口から頭を下げて泊めてもらっていました」
「慰謝料なし、養育費なし、生活保護なし」で港区に住む
夜の街に放り出される日々が数年間つづき、貯金もみるみるうちに減少したそうです。港区母子さんの現在の経済状況について詳しく伺います。
Q 現在離婚調停中ということですが、元旦那さんから慰謝料や養育費は?
「支払われていません。また、離婚を切り出した際に子どもの教育費として2人で積み立てた貯金約200万円を、無断で持って行かれました。『慰謝料だからな!』と吐き捨て、現在も持ち逃げ中です。離婚協議書には支払う意思が記されていますが、未だ振り込まれていません」
Q 現在の収入源は?
「慰謝料なし、養育費なし、生活保護なしなので、私が会社からもらっている給与で生活しています。加えて港区の児童扶養手当を受け取っています」
Q かつては正規雇用だったとお伺いしましたが、いつから非正規雇用になりましたか?
「子どもを産む以前は、現在勤めている会社の正規雇用でキャリアを積んでいました。そのため私の収入もそれなりにあり、当時は夫婦で1,000万円以上の世帯収入がありました。
子どもが産まれてから元夫は育児に参加せず、ワンオペ育児になったため、勤務時間の融通が利く非正規雇用の契約に変更して、同じ会社に勤めています。
その後離婚してさらに世帯収入がぐっと減りましたが、生活保護の受給要件となる金額設定を超えているため、生活保護は受給できません。
正直、生活保護をもらっている方のSNSを見ていると、自分たちより豊かな生活送っているな……と感じることもあります」