貧困でも、港区を離れられない理由
都営住宅とは住宅に困窮する世帯に供給される住宅で、その当選確率は押し並べて高倍率です。
令和5年5月都営住宅募集入居者募集の抽せん倍率を確認すると人気の高輪一丁目(2人以上世帯)は108.5倍、芝五丁目(1~2人世帯)は45.1倍です。一方で、倍率が10倍以下の住宅が港区に11棟あります。港区母子さんにお伺いしました。
(参照:令和5年5月都営住宅募集入居者募集 抽せん倍率表|東京都住宅供給公社)
Q 倍率の低い住宅を選んで応募したのですか?
「その通りです。事故物件はそうでない物件に比べて倍率が著しく低いので、人が避ける事故物件と築年数の古い物件に絞って応募して、一発当選を目指
Q 港区の都営住宅に住んでいる以外に、港区に住み続ける理由は?
「沢山あります。まず1つ目は、港区の保育園に子どもが通っているからです。
子どもの保育園を探す保活をしていたときは離婚前です。港区内に保育園が見つからなければ、家族で区外に引っ越す心持ちで江戸川区や足立区なども調べていました。
ですが当時の江戸川区、足立区は港区以上に空きが少ない状況でした。元夫が数十年間港区に住んでいたので、“区内の在住歴が長い世帯”とみなされポイント加算の対象となり、区内の保育所にすべり込むことができました。
港区内でなければ、保育園はなかなか見つからなかったかもしれません」
Q その他、港区で子育てをするメリットはありますか?
「子育て支援やひとり親家庭支援が手厚いです。たとえば、港区がひとり親家庭に交付している『港区コミュニティバス乗車券』と、東京都交通局が児童扶養手当受給者(ひとり親世帯)に交付している『都営交通無料乗車券』の制度を利用しています」
Q その他に利用している支援はありますか?
「こども食堂が食品や日用品を配布するフードパントリーを利用しています。
(※各団体によって利用対象者の要件は異なります)
その他、お米やレトルト食品・日用品が掲載されているカタログから欲しいものを数品選んでウェブから注文すると、その商品を自宅に無料で配送してくれる『エンジョイ・セレクト事業』を利用しています。月4品、10,000円相当の支援が受けられるので非常に助かっています。もちろん、ひとり親家庭や生活困窮世帯向けのため、利用するには要件があります」
港区母子さんから見える、港区の姿とは?
2023年3月に、港区在住の0~18歳の子どもがいる世帯(所得制限なし)に向けて、子ども1人につき5万円分の子育て応援商品券が、給付されました。
普段は節約のためお菓子はなかなか買えない港区母子さんですが、商品券を利用して、子どもに100円均一ショップでアンパンマンのペロペロチョコを2つ買ってあげたそう。満面の笑顔で喜んでくれてことがとてもうれしかったそうです。
どうやら港区母子さんから見る港区と、ラグジュアリーなショップや施設が立ち並び、高所得者層が集まる一般的な港区のイメージとは乖離しているようです。
Q 港区母子さんにとって、港区はどんなイメージですか?
「表参道駅から徒歩5分のところに、東京大空襲で住宅不足になった戦後の青山エリアに建てられた、都営北青山三丁目アパート(旧・青山北町住宅、1947年・昭和22年建設)という都営住宅があります。当時は表参道ヒルズも、ハイブランドの路面店もありません。
戦後から令和の現在に至るまで、同じ場所で公営住宅が維持されつづけている理由はただ1つ、必要としている人がいるからに他ならないのではないでしょうか。
歴史を知っている、昭和の時代から港区に住む先住民の人たちは、ラグジュアリーな街だとは思っていないかもしれません」
富裕層と、貧困と闘う親子――両者が暮らす多様性豊かな、懐の深い街。これが港区の素顔の1つです。
Q これからの夢、目標はありますか?
「子どもが18歳になるまでに大学資金を貯めたいです。子どもが望む進路に進ませてあげたいので、毎月わずかな額をコツコツ貯金しています。
私は最低生活費レベルの収入があって、都営住宅住みです(さらに水道代の支払いには東京都の児童扶養手当証のひとり親世帯向け減免制度を利用しています)。
それならば、言うほど生活は苦しくないのでは?と思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。私は親の介護をしています。両親ともに存命のため、介護費は2人分かかります。今後医療費などまとまった出費があれば、間違いなく生活できなくなってしまいます。そうならないためにも今から貯金しておくことが重要です。
子どもが小さい今のうちに、どれだけ節約し、どれだけ貯金したかで、私たち親子の今後の人生は大きく変わると思っています」
NPO法人が語る「貧困と戦うひとり親家庭のためにできること」
港区母子さんのように経済的な苦さを感じながらも、世帯収入が最低生活費を上回り、生活保護が受給できない世帯にとって、支援は命綱です。わたしたち1人1人に何ができるか? NPO法人みなと子ども食堂副理事長を務める、阿部浩子 港区議会議員にお話をお伺いしました。
「みなと子ども食堂を運営するにあたり、利用者の声を聞くようにしています。単に自分たちが集められるものを集めて、配るのが利用者にとって有益であるとは思いません。賞味期限ギリギリのレトルト食品を沢山渡されても、すべて消費しきれないですよね? なので支援者中心ではなく、利用者中心を心がけています。
実際に利用者の『オムツが買えない……』という声に応じて、オムツの取り扱いをフードパントリーで開始しました。同じく利用者の『子ども食堂に行ったついでに、法律相談ができたら便利』という声に応じて、『法テラス』(完全予約制)を設置し、弁護士に無料相談できるようにしています」
実際のフードパントリーの現場では、阿部さんが利用者に「今の時間、法律相談のキャンセルがでたので、前回お話していたことを相談してみたらどうですか?」と気さくに声掛けをしている姿が見受けられます。
わたしたちが「貧困と戦うひとり親家庭のためにできること」は、まずは「戦っている人たちを知ること」なのかもしれません。
※この記事は、THE GOLD ONLINEとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。
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