(※写真はイメージです/PIXTA)

被相続人が独身だった場合、その兄弟姉妹が相続人になることは珍しくありません。法律上、兄弟姉妹間の相続分には差がなく、実際の相続事例でも平等を重視するケースは多いようです。しかし「平等な相続」というのは、一見わかりやすい方法のようでいて実は複雑です。平等に相続するための具体的な方法や注意点について、佐伯知哉氏(司法書士法人さえき事務所所長)が事例を挙げて解説します。

 

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【事例】

●被相続人:Aさん(長男。両親はすでに他界)

●相続人:Bさん、Cさん、Dさん(いずれもAさんの弟)

●Aさんの遺産:自宅マンション、預金、有価証券(株式と投資信託)

 

⇒4人兄弟の長男・Aさんが死亡しました。Aさんに配偶者はなく、両親もすでに他界していたため、Aさんの弟であるBさん、Cさん、Dさんの3人が相続人となります。Aさんの遺産は自宅であるマンション、預金、有価証券(株式と投資信託)です。残された兄弟3人が不動産を含めて〈平等に相続〉するには、どうすればよいのでしょうか?

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独身の方が亡くなると、その兄弟姉妹が相続人になることが多い

被相続人(亡くなった方)が独身だった場合、存命であれば被相続人の親が、もし親も亡くなっていれば被相続人の兄弟姉妹が相続人になるというように法律上は定められています。

 

現実では、事例のように兄弟姉妹が相続人になるケースのほうが多いです(事故などで急逝したわけではなく、被相続人がある程度の年齢になってから亡くなった場合、その両親はさらに高齢ですから、すでに亡くなっている可能性が高くなります)。

 

兄弟姉妹といえど、お互いが大人になってからはある程度の距離ができることも珍しくありません。親が亡くなった場合に比べて、被相続人と相続人の関係性はだいぶ遠いものになっていると考えられます。よって、被相続人と生前特別な交流があったわけでもなければ、「兄弟どうし、全部平等に相続しようよ」という方針になるパターンが多いです。

 

兄弟姉妹間の法定相続分(=法律で定められた相続の割合)は平等で、兄姉や弟妹にかかわらず差はありません。事例においては、Bさん、Cさん、Dさんの相続分はそれぞれ「3分の1」です。

 

とはいえ遺産のなかには、物理的に分割できないものや、分割しにくいものもあるでしょう。事例の兄弟3人が平等に相続するためには、具体的にはどのような方法があるのでしょうか?

兄弟3人が平等に相続するには?最もシンプルな遺産分割案

最もシンプルな方法は、共有で持てる遺産は共有名義にし、分けられるものは等分にするという方法です。

 

●預金⇒3等分

●不動産⇒3人の共有名義に

●有価証券⇒可能であれば3等分

 

預金は1円単位まで綺麗に分けられるので、そのまま3等分することができます。不動産については3人の共有名義とし、それぞれの持分割合(所有権の割合)を3分の1として登記すればよいでしょう。株や投資信託といった有価証券は、3等分にできるのであればそのとおりにすればよいと思います。

 

この案は最もシンプルですが、問題点もあります。

 

<問題点①>

第一に、不動産を長期的に共有名義にすることはおすすめしません。共有名義の不動産は管理や処分(売却や賃貸など)をする場合に支障をきたすことがあるからです。

 

例えば誰かに不動産を貸し出そうとした場合、基本的には共有者の過半数から同意を得られれば可能です。しかし、売却するとなると共有者全員の同意を得なければならず、1人でも反対すると売ることはできません。また、年齢を重ねていくうちに共有者の1人が認知症になるなどすると、共有不動産は資産凍結の状態に陥り、売却が難しくなるパターンもあります。

 

不動産の共有には上記のようなリスクを伴います。ましてや、大人になってからの兄弟姉妹の関係性は、夫婦や子どもに比べて遠くなりがちです。そういった意味でも兄弟姉妹で共有名義にするというのはおすすめしません。

 

<問題点②>

預金や現金などの「お金」は1円単位で分けられるので等分しやすいですが、有価証券などの「お金ではないもの」はきれいに割り切れない場合があります。事例の場合、もし株が100株だったら3等分にはできません。

 

以上のような問題を解決するには、どうすればよいのか。それが次項です。

共有状態を避けつつ平等に相続するには「すべて現金化⇒分配」

共有状態を避けつつ平等に相続するには、基本的にはこの方法しかありません。不動産も有価証券も、すべて現金化して分けてしまえばいいのです。

 

不動産を現金化する、つまり売却してお金に換える方法には2パターンあります。

 

【不動産の売却方法①】不動産を共有名義で登記⇒売却

1つは、不動産を兄弟3人の共有名義で登記し、そのうえで売却するという方法です。前項で共有不動産に伴う問題点を述べましたが、これはあくまで共有状態が長引くことで生じるものなので、すぐに売る分には問題ありません。

 

※注意点:共有者どうしの協力が必要

⇒売却時は共有者である3人が売り主となるため、売買契約や決済(引き渡し)などは基本的に3人全員で行う必要があります。共有者のうちの1人を代理人とすることも可能ですが、少なくとも引き渡し時においては、売り主全員の本人確認が必要になります。全員が足並みを揃えなくてはならないという点では煩雑な方法と言えます。

 

【不動産の売却方法②】代表相続人名義に登記してから売却換価⇒分配

もう1つの方法は、不動産をいったん代表相続人の名義に登記してから売却換価し、分配するという方法です。例えば今回の事例では、まず3人いる相続人のうちBさんを代表相続人とし、いったん便宜的にBさんの名義で登記します。そして売却後、諸経費などを差し引いて残ったお金を3人で3分の1ずつ分けるという形です。

 

※注意点:

⇒便宜上とはいえ、登記簿上は一度Bさんの名義に入れてからお金を分配することになります。BさんからCさん・Dさんへお金が流れるときに贈与税などの課税問題が生じないよう、遺産分割協議書の書き方にご注意ください。

 

以上が不動産の売却方法です。

 

【有価証券の売却方法】代表相続人が売却して分配する

次に有価証券の売却方法ですが、これは代表相続人が売却して分配するしかありません。相続人のうちの誰かが代表として売却を進め、お金に換えて分けることになります。

 

※注意点:代表相続人の負担が大きく、不満が残る可能性も

⇒不動産の売却にせよ、有価証券の売却にせよ、代表相続人となる1人には大きな負担がかかります。

 

例えば不動産であれば、その売却の段取りをすべて行わなければなりません。仲介業者を選んだり、測量を手配したり、一戸建てなら建物を解体したり(今回の事例はマンションなので当てはまりませんが)、売買契約から決済、売却後のお金の分配に至るまで、基本的には代表相続人1人がすべて行うことになります。

 

有価証券の売却に関しても同様です。相続用の証券口座の開設に始まり(すでに証券口座をお持ちであれば問題ありません)、売却の手配をして相続人へ分配していくという一連の流れを代表相続人が請け負うことになるため、どうしても相続人1人に対する負担が非常に大きくなります。

 

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<代表相続人の負担>

●不動産売却の段取りすべて

(仲介業者の選定、測量の手配、建物解体、売買契約、決済、相続人への分配など)

 

●有価証券売却

(証券口座の開設、売却手配、相続人への分配など)

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相続人どうしで「負担が大きい分、代表相続人が取得する割合を大きくする」といった話し合いがつけばよいのですが、「そもそも、3人で平等に分けるためにこの方法を取ったんだから…」と押し切られてしまえば、代表相続人は労力に見合わないと感じるかもしれません。そういった点では注意が必要です。

 

対処法として、専門家に依頼するという選択肢があることを知っておくとよいでしょう。代表相続人の代わりに司法書士を代理に立て、代表相続人の方が行うような事務手続きや負担を任せることができます。

「平等に相続」するには

今回の事例のように「兄弟姉妹で平等に分けたい」というケースは珍しくありません。しかし平等に相続するというのは、一見わかりやすい方法のようでいて実は複雑です。共有名義のリスクを知らずに共有状態にしてしまったり、遺産を売却してから分配したはいいが、遺産分割協議書に不備があって税金が生じてしまったりなど、あとあとトラブルが生じる可能性もあるかもしれません。

 

司法書士に相談すれば、売却手続きを委任できるだけではなく、法律的な知識や遺産分割協議書の書き方(どこに気を付けるべきかなど)などのアドバイスも可能になります。困りごとやわからないことがあれば、一度相談することをおすすめします。

 

 

佐伯 知哉

司法書士法人さえき事務所 所長

 

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