(※写真はイメージです/PIXTA)

世の中には「自分はこれだけ苦労したのだから、下の世代も同じ経験をするべき」というよういう考えを持つ人がいます。こうした「生き方を強要してくる人」には、どのような心理があるのでしょうか? 本稿では心理カウンセラー・寝子氏の著書『「親がしんどい」を解きほぐす』(KADOKAWA)より一部を抜粋し、特に親子間で生じる生き方の強要に着目して解説します。

「生き方を強要してくる人」の心理とは?

自分より人生の先輩である大人を見ていると、「自分たちが嫌な思いをしたからそれを次の世代にはしてほしくない」と考えていることもある一方で、「同じ苦労をするべき」と強要する場面にも遭遇したことがあるのではないでしょうか。

 

たとえば、「自分は若いときに仕事を教えてもらえなくて苦労したから、自分が年長者になっても教えない」でしたり、「結婚したことへの愚痴をさんざん言っていたのに、子どもには結婚を勧める」といったりというような状態です。

 

こういった言動の背景にあるのは、“自分の人生を肯定したい”という心理と、“怒り”からの“嫉妬”という心理が挙げられます。

「内省する力」が弱いために、自他の区別がつかない

私たちは、良くも悪くも、自分が経験したことを肯定しようとする心理作用があります。理想は、自分の経験をそれぞれ丁寧に考えられるといいのですが、内省力が弱いと、一括して「苦労も含めて体験すべきことだった」と全面的に肯定して、自分の人生にマルをつけたいという心持ちになります。

 

加えて、内省力のなさは、自分と他人をしっかり区別できないことの原因にもなります。そのため、自分が経験したことはすべて良かったと考え、「ほかの人もそうすべきだ」と飛躍した思考が生じます。

 

もう一方では、どこか自分の人生の一部に、後悔や鬱憤(うっぷん)などを抱いている場合もあります。その気持ちを意識化できていないと、自分とは違う生き方をしている他人を目の当たりにしたとき、「否定された」という勘違いが生じます。

 

それゆえ、自分の心の安定を保つために、できるだけ多くの人に自分と同じ人生を送ってほしいと無意識で願うようになるのです。

 

いずれにしても、自分の気持ちや価値観と向き合っていないことで、他人に自分の生き方を強要してしまいます。

「自分のときはもっと大変で…」は助言のふりをした“自慢話”

たとえば子ども側が自分の悩みを親に相談したとします。

 

そのときに「お父さんの時代はもっと大変だったんだ」と親の体験談を披露し、子どもにも同じような苦労をすべきだと説いたとしたら、それは本当に子どものことを思っての言動ではありません。

 

これは、親のただの“自慢話”です。

 

「こんな苦労も乗り越えて成功したんだ」と披露しているだけであり、子どものことを考えてもいなければ、子どもの話を聞いてもいません。

 

親自身は自分がした経験が正しいと思っているため、子どもに「正しいことを教えてあげている」と思い込んでおり、子どもの話を自分の自慢話にすり替えたことに気づいてもいません。

 

このような場合は、余裕があれば付き合ってあげてもいいかもしれません。けれど、このようなことを言われて不快になったときには、「話題泥棒」と心の中で思って、そもそもの相談の話は続けようとせず、話題を変えたほうがさらなるストレスを負わずに済むでしょう。

「自分と同じ苦労をすべき」という“嫉妬心”があることも

自分と同じ苦労をさせようとするとき、それは“嫉妬心”からであると捉えられることがあります。

 

わかりやすい例として、結婚の勧めを挙げましょう。

 

「結婚は忍耐」「お母さんなんて家政婦みたい」などと、結婚に対するネガティブな感情をたくさん話していながら、子どもには「早く結婚しなさい」と自分と同じ道を歩ませようとする親がいます。

 

「結婚なんてしなきゃよかった」と言っていたのに、どうして子どもに勧めるのでしょう?

 

その中には、「愚痴を言いながらも、結婚したことによって良いことがたくさんあった」というような、ポジティブな意味での勧めもあると思います。

 

一方で、“自分と同じ苦労をすべきだ”という歪んだ感情が存在することも稀ではありません。これは“嫉妬”と捉えることができます。「自分より幸せになってほしくない」という嫉妬です。

親の嫉妬心は引き受けなくていい

嫉妬という感情にはいくつかの意味が隠されており、必ずしもネガティブな感情とは限りません。ポジティブな感情が土台になった嫉妬は、意欲や真剣さから来た「負けたくない」という気持ちです。

 

一方、“自分より楽をするなんて許せない”という嫉妬は、強者に向けることができない怒りを弱者に向けた怒りの結果です。

 

つまり、親から子どもへ嫉妬心が向けられる場合、親が本来向けるべき怒りの標的はもっと上の立場の者であるということです。それは夫(子どもの父)かもしれませんし、祖父母や義理の両親などであるかもしれません。あるいは、「時代」や「社会」に対してかもしれません。

 

しかし、自分より強い者に怒りを向けると、やり返されてしまう危険性があります。そのため、怒りを向けても安全でいられる、自分よりも弱い者に八つ当たりするのです。

 

“上から下に流れた怒り”は、本来は子どもに向けるべきものではありません。

 

子どもがそれを受け止める道理はない負の感情なのです。もし、ご自分の親にこのような嫉妬心を感じたら、できるだけ距離を置いたほうがいいかもしれません。

 

このような場合、親の心境は厄介ですので、できるだけ巻き込まれないように警戒が必要となります。

 

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<本稿のまとめ>

●内省力のない親は、自分と他人を区別できていない。

●親の“自慢”と“嫉妬”は引き受けなくていい。

●親の“嫉妬心”に気づいたら距離を取る。

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心理カウンセラー 寝子

 

臨床心理士。公認心理師。スクールカウンセラーや私設相談室カウンセラーなどを経て、現在は医療機関で成人のトラウマケアに特化した個別カウンセリングに従事。トラウマの中でも、親子関係からのトラウマケアと性犯罪被害者支援をライフワークとしている。

臨床業務の傍ら、X(旧Twitter)で心理に関する発信をし始め、フォロワー1.5万人超え(2024年1月時点)。対処法よりも自分を理解することに重きを置いた内容が支持され、ブログ記事は「探していた答えが書いてあった」「自分の状態がクリアに理解できた」と評判になっている。

 

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※本連載は、心理カウンセラー・寝子氏の著書『「親がしんどい」を解きほぐす』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。

「親がしんどい」を解きほぐす

「親がしんどい」を解きほぐす

寝子

KADOKAWA

●自分がどんなに疲れていても、親の頼みをつい聞いてしまう。 ●親子喧嘩でひどい言葉を言ったり、言われることが多い。 ●親に会うと、理由なくイライラしてしまう。 ●話を聞いてほしいのに、話が通じていない気がする。…

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