<前回記事>
「親に愛されている子」より「虐待を受けている子」のほうが“親に好意的”なワケ【Xフォロワー1.5万人・心理カウンセラーが解説】
一番近しい人への「親しみ」と「怒り」「不信」「不安」
子ども時代は、親次第で事態が決定されます。
そして、対人関係のベースとなるのも親との関わりです。
そのため、親との関係で「楽しみにしていた約束を破られることが何度もあった」「困ったときに頼っても聞いてもらえなかった」というような体験を重ねると、「人に期待しても傷つくだけ」と心に刻まれて、親以外の対人関係においても同様の思いを抱くことがあります。
加えて、そのときの怒りや傷は、どんなに納得できなくても子どもにはどうしようもないため、飲み込むしかありません。結果として、傷は消化されないまま、大人になるまで持ち越されるという状態が多々生じます。
親への不快感があるのは無理もない
この癒されなかった心の傷が大人になって親と関わるときに刺激されることで、些細なことでも強い怒りが喚起されたり、親のちょっとした一言にも深く傷ついてしまったりといった反応を起こします。
そのため、ただでさえ負担になっている親との交流が、さらに不安定でストレスフルになってしまいます。
このような場合、親と関わるときはあらかじめ「怒りや不信や不快感などを伴ってしまうのは当然なのだ。それだけ、子どものころに傷ついてもなかったことにして適応したのだ」と心に留めておけると、ご自身の感情の揺れに対してさらに動揺することを防げるようになっていけます。
もし、あまりに不快感が刺激されるのであれば、親と関わる頻度を減らすなどの具体的な対処が必要になるでしょう。
優しく傷を覆うようにご自身を守る対処を考えられると、痛みがだんだん和らいでいくように思います。
「一番近しい人=傷つけてくる人」という幼少期の経験
改めて、子どもにとっての親は一番近い存在で最重要人物です。
そのため、親は幸せや喜びを与えてくれる存在であった反面、“最も傷つけてくる人”であったということが少なくありません。
親に傷つけられたという程度が重くて頻繁であると、“一番近しい人は傷つけてくる人”という矛盾した世界観、子どもが抱えるには重過ぎる体験を重ねていくことになります。
子ども時代にこのような経験を重ねた結果、大人になっても親と関わるときに、「親しみ」と共に「不安」や「怖さ」といった負の感情も一連となって反応を起こすため、落ち着かない心境に悩むことがあります。
一番近しい人は、本来安心できる人である必要があります。しかし傷つけてくるのであれば、「戦うか逃げるか」という自分の身を守る行動をとらなくてはいけません。これは正反対の反応を同時に起こすことになりますので、行動はどうしても不安定になります。
時にはすごく親しげに自ら積極的に親と関わったり、またある時には強烈に嫌悪感を強めて距離を置いたりするなど、ご自身でも親に対してどう接したいのかがわからなくなることがあります。
そして、どう接してもスッキリせず、言いようのないストレスを抱え続けてしまう状態が見受けられます。
このようなモヤモヤに心当たりがあったら、「子ども時代の自分にとって、親は最も近くて親しい人だったけれど、誰よりも傷つけてくる人でもあったことから生じている」と気づけると、気持ちの整理の助けになります。
そして、強い負の感情の理由を理解することで、これまでよりも自分の反応を恐れずに済むようになっていけます。
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<本稿のまとめ>
●親への親しみと同時に、不快な感情を抱くのも自然なこと。
●気持ちが不安定になる背景には、「一番近しい人=傷つけてくる人」という子ども時代の経験があるのかもしれない。
●今の不快感は、子どものころの“心の痛み”だと気づく。
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心理カウンセラー 寝子
臨床心理士。公認心理師。スクールカウンセラーや私設相談室カウンセラーなどを経て、現在は医療機関で成人のトラウマケアに特化した個別カウンセリングに従事。トラウマの中でも、親子関係からのトラウマケアと性犯罪被害者支援をライフワークとしている。
臨床業務の傍ら、X(旧Twitter)で心理に関する発信をし始め、フォロワー1.5万人超え(2024年1月時点)。対処法よりも自分を理解することに重きを置いた内容が支持され、ブログ記事は「探していた答えが書いてあった」「自分の状態がクリアに理解できた」と評判になっている。
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