老後破産を回避できた可能性も…「経営」に最低限必要な素養
では、石沢さんのケースではどうすればよかったのでしょうか。
まず、開業当初の利益の見込みが甘すぎた点を反省しなければなりません。
いくら客足が絶えず忙しくても、一日あたり稼ぐことができる粗利は8,000円程度で、月に20日稼働しても16万円。代わりに、水道光熱費が増えたり、そのほか経費が発生し固定費が大体4万円程度掛かります。それを差し引くと利益は12万円にしかならないのです。
これは事前に計算していれば十分にわかったことでしょう。公的年金を繰り上げて受給しても収入は合計で18万円~24万円程度、生活はしていけるレベルではありますが決して余裕を持った生活ができる水準ではありません。
そして、利益がどの程度か、どの程度お金が出入りしているかをきちんとチェックしていれば、問題点に気づいて軌道修正することもできたはずです。収入が少ないことがわかっていれば事業自体を見直すこともできたでしょうし、家計の支出をおさえることで資産の減少を食い止めることもできたのではないでしょうか。
事前の計画と実績のチェック、予定と違った場合の修正を行っていれば、いざ年金生活に入るタイミングで「資産がほとんどない」という状態になることは防げていたことでしょう。
さほど利益を求めているわけではないとはいえ、計画と実績チェックをしてみなければ、石沢さんのように問題点がなにかわからないまま、お金を減らしてしまうこともあるのです。
また、公的年金を繰り上げて受け取っていましたが、十分な資産がないと後々生活が苦しくなってしまいます。
手元の資産を運用しながら取り崩し、カフェだけで生活費くらいは稼げるように計画を立てたうえで開業し、公的年金は65歳から受け取る計画を立てたほうが安心の老後を送ることができたでしょう。
経営未経験のシニアが「ふんわり計画」で起業するのは危険
「退職したら〇〇をやりたい」という夢をお持ちの方も多く、2019年に三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行ったアンケート調査では、10年以内に起業した人のうち14.3%が60歳以上のシニア世代となっているなど、リタイア後の起業も少なくありません。
しかし、経営の経験がない人があまり勉強せず、準備も疎かに甘い経営計画のまま始めてしまうと、今回の石沢さんのような失敗につながります。
売上がいくらになり、仕入れがいくら、毎月掛かる固定費がいくらで、最低限いくら売上が必要か……。これらの「最低限事前に考えるべき計画」を立てずになんとなくの価格設定で経営をしてしまい、決算業務も年が終わって確定申告のためにするだけ。結果として毎月のお金の出入りが見えず、起きてしまう問題は多々あります。
どのような起業をしたいのか、自分や家族はどんな生活をしていたいのか、そのためにはいくら生活費が必要で、いくら売上があれば十分なのか。こうしたことを熟慮したうえで、工夫しながら価格を調整したり、店のレイアウトを考えたりすることも必要です。
自分の老後の生き甲斐や楽しみになる事業を始めることは大変よいことではあります。しかし、理想の老後のためにも経営のこと、自分の人生のお金のことについて、しっかり向き合い、理想の将来設計を実現できる計画を立てて始めてることをおすすめします。
小川 洋平
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