「新NISA、いまさら〈わからない〉とはいえなくて…」
生徒:新しいNISAがスタートしました。周囲の人もこの話でもちきりなのですが、実は私、ズブズブの投資初心者なのです。しかし、いまさらわからないとはいえず、知ったかぶりをして話を合わせている状況です。資産運用は「長期・分散・積立て」だといわれますが、むずかしくて…。
先生:なるほど。大丈夫ですよ。新しいNISA口座での正しい運用法は、本来、あれこれ迷うようなものではありません。決してむずかしくない、シンプルなものです。口座開設の手続きについては、金融庁のホームページや解説本などを見ていただくとして、どの商品を買えばいいのか説明しましょうか?
生徒:いや、その前に…。新しいNISAはなぜ有利なのか、教えていただけないでしょうか。
先生:もちろんOKですよ。新しいNISAの特長は、下記6項目です!
(1)儲かった利益に税金がかからない
(2)1年間に360万円の投資ができる
(3)一生涯に合計1,800万円まで投資できる
(4)いつでも解約が可能である
(5)解約すればその分また投資できる
(6)運用する期間が無期限である
(1)儲かった利益に税金がかからない
生徒:儲かった利益に税金がかからないとは、どういうことですか?
先生:新しいNISA口座で運用した結果、利益が出ても課税されないということです。所得税と住民税の税率は20%ですから、投資の結果から得られる利益が年率で5%とすると、そのうち20%、つまり年率1%程度の手取りが増えるということです。通常の特定口座や一般口座と比べると、手取り金額が大きくなるので、圧倒的に有利ですね。株式投資の期待利回りを5%であると考えるならば、NISA口座で運用すると、利回りが1%アップすると考えてもいいでしょう。
生徒:運用の利回りが年率1%もアップするのは大きいですね!
先生:利用しないと損です。投資を行うときにNISAを使わずに特定口座を使うなんて、本当にもったいない話ですよ。
生徒:すでに特定口座で運用している株式や投資信託は売却して、そのお金をNISA口座に移したほうがいいということですか?
先生:すでに大きく値上がりしている場合、売却すると税金が取られてしまうので、悩ましいところですね。特定口座で運用を続けたとしても、将来売ったときに同じだけ税金を取られることになるので、先に税金を支払って、早めにNISA口座に移してしまうほうが有利になる可能性が高いでしょう。
(2)1年間に360万円の投資ができる
生徒:1年間に360万円の投資ができるというのはどういう意味でしょうか?
先生:「つみたて投資枠」で120万円、「成長投資枠」で240万円まで、1年間に投資できます。つまり、合計360万円ということです。この2つの投資枠は、単なる入金ルールの違いです。
生徒:入金ルールとは…?
先生:つみたて投資枠では、定期的な積み立て投資が必要ですが、成長投資枠では、年間240万円までいつでも自由に投資することができます。たとえば、投資に回せるお金が新たにできたときに使うといいですよ。
生徒:なるほど。自由に投資できるなら、投資するタイミングや商品選択が重要になりそうですね…?
先生:いいえ。まったく関係ありませんよ。どのタイミングで投資すべきなのか、どのタイミングで投資すべきでないのか、これはプロの投資家でも判断できないことです。また、どの商品が儲かるのか、どの商品が儲からないのか、これも同様に、プロの投資家でも判断できないことなのです。
(3)一生涯に合計1,800万円まで投資できる
生徒:一生涯に合計1,800万円まで投資できるというのは、どういうことでしょうか?
先生:個人投資家1人が、購入価格を合計して一生涯に1,800万円まで投資することができるということですね。値上がりしたあとの時価ではありません。このうち「成長投資枠」は1,200万円までです。1年間360万円まで投資できますから、1,800万円を使い切るまで5年間かかるということです。
(4)いつでも解約が可能である
生徒:いつでも解約が可能というのは、どういうことでしょうか?
先生:iDeCoや企業型確定拠出年金とは違い、NISA口座の解約はいつでも可能です。急にお金が必要になることもある若い世代の方々には、いつでも解約できるほうが助かりますよね。
(5)解約すればその分また投資できる
生徒:解約すればその分また投資できるというのは、どういうことでしょうか?
先生:資産を売却して空いた投資枠は、翌年以降に復活するのです。そのうえで、1年間360万円という上限はありますが、繰り返し投資することが可能です。
(6)運用する期間が無期限である
生徒:運用する期間が無期限であるというのは、どういうことでしょうか?
先生:無期限の長期投資が可能だということです。買ったらずっと持ちっぱなしの長期投資が好ましいでしょう。生涯投資枠の上限1,800万円は購入価格で計算するので、値上がりする前の早い段階で1,800万円を使い切り、その後はずっと放っておくのがよいということです。ずっと長く持つことを考えると、投資対象に偏りがあると不利になります。つまり、平均に近いほうがいいということです。
生徒:無期限の長期で運用することが前提なら、どのような投資信託を買えばよいでしょうか?
先生:日本株、米国株などといった特定の市場に対して偏った投資を行うよりは、全世界の株式に平均的に投資する商品のほうが有利になります。また、長期間にわたる複利運用では、手数料の差が利回りに多く影響します。それゆえ、信託報酬は低い商品のほうがいいでしょう。そうなりますと、eMAXIS Slim全世界株式、オール・カントリーが最適です。これを、つみたて投資枠も成長投資枠にも投資したらいいでしょう。
生徒:ですが、多くの書籍や雑誌の特集で、つみたて投資枠と成長投資枠で別の商品を勧めたり、投資家の好みに応じて商品を選ぶことを教えたりしていますが…?
先生:公認会計士の立場から申し上げますと、あのような記事を書いている著者は、そもそも金融理論を理解していない人なのか、金融理論を理解しているけれど金融機関に忖度している人たちでしょう。ノーベル賞経済学者のハリー・マーコウィッツ教授は、中途半端な分散投資はダメだ、とことん分散させなければいけないと教えています。それに従うと、結論は、eMAXIS Slim全世界株式、オール・カントリーの一択になります。これを買いたいだけ買って、老後まで放っておくことが最適だということです。
生徒:なるほど、よくわかりました。ありがとうございました!
※ 本記事の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。
岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
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