日本円が使えなくなったときに起こる最悪の事態
日本円を使うことで、外国の人たちは、日本製品を買ったり日本を旅行したり、さまざまな形で日本の人に働いてもらえる。もし、外国の人たちが大量に日本円を保有するようになって、それを使い始めたら、日本にいる僕たちは、自分たちの生活だけでなく、外国のためにもたくさん働かなければいけなくなる。
それこそが将来のツケになるとボスは言う。
「でも、それって、ふせげませんか」
優斗は、その話を自分の国に置き換えて考えてみた。
「僕の国で発行したサクマドルを外国の人たちがたくさん持っているのと同じなんでしょ。サクマドルを使わせなくしたらいいじゃないですか」
その反論に、ボスは首を振った。
「そうは問屋がおろさへんで。日本円が使い物にならへんと、外国の人たちは日本円を欲しがらなくなる。日本円の価値が下がって、誰も食料や石油を売ってくれへんやろな。そうならんためにも、貿易赤字は無視でけへん」
言い終えると、ボスは急に咳き込み始めた。
顔がみるみる赤くなる。
「大丈夫ですか?」
七海が心配そうに駆け寄り、ボスの背中を優しくたたいた。咳はしばらく続いたが、彼女が背中をたたくたびに少しずつ収まっていった。
「もう、大丈夫や。すまんすまん」
三度ほど深呼吸をしてから、ボスは話を戻した。
「七海さんのわだかまりは解消できたやろか。僕らは借金と引き換えに今の生活を送れているんやない。借金と同じだけ預金が存在しているし、今のところは、外貨をたくさん貯めている。せやけど今がふんばりどきや」
「私たちの生活は、過去の蓄積の上に成り立っていることには変わりないんですね。将来にツケを残さないためにも、外国に頼るだけではなくて、外国のために何ができるかを考える必要がありますね」
「何をするのが正解なのか、僕にはわからへん。それに、今の僕の話は、日本のことしか考えてへん。外国のことを考えていたわけやない。君らが思う正解の未来を、ぜひとも作ってほしい」
田内 学
お金の向こう研究所
代表
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