内側と外側で働く人々
ボスはまず、質問から始めた。
「2つの借金の違いは、誰が働いているかを考えれば、わかることや。お兄さんは、奨学金で借りたお金を使って、誰に働いてもらうんや?」
「それは、大学の先生とか職員の人たちですよね……」
とりあえず優斗は答えたものの、ボスの質問の意図がまるでわからない。いつものことではあるのだが。
「大学の先生に働いてもらったから、いつかは自分が働いて借金を返済せんとあかん。そのとおりやな。ほな、政府が借金して道路を造ったら、働いているのは誰やろか?」
「それは、道路を建設する人でしょ。だけど、それも同じじゃないですか。働いてもらっているんだから、いつかは働いてお金を返さなきゃいけないわけだし」
その回答に、ボスは笑顔のまま黙り込んだ。考え直せという意味だ。
優斗が頭をひねって考えていると、壁際に置かれた大きな花瓶にふと目がとまった。花瓶の中で、大振りのガーベラが何本も頭を垂れていた。昨日入院したばかりなのにこんなにしおれるのだろうか。
それ以上考えることは、七海の発言によって中断された。
「その違いというのは、内側と外側の違いでしょうか」
ボスの眉がぴくりと動く。
「それはどういう意味やろか?」
「家庭の借金の場合は、家庭の外側の人にお金を払って働いてもらいます。ですが、国が借金をして道路を造る場合は、国の内側にいる人が働いています。つまり、自分たちで働いていますよね」
七海の回答に、ボスが満足そうな表情で応じる。
「よう気づいたな。サクマドル※と同じ話や。20サクマドルを支払って、佐久間家の大掃除をするとしよか。お父さんが税金を集めるかわりに借金をしても、結局のところ、兄弟の誰かが必ず大掃除をする。ラクできるわけやないんや」
※ ボスがお金の説明のために作った優斗の家専用の仮紙幣
そこまで言われて優斗もようやく理解できた。頭の中で固まっていた老人のイメージが突如として崩れていく。彼らは決してなまけていたのではない。
自分たちが一生懸命働くことで、欲しいものを手に入れてきたのだ。
しかし、まだ疑問が残る。このパズルを解くには、まだ見つかっていないピースが存在していた。
「働かないでサボっていたんじゃないのはわかりましたよ。でも、その莫大な借金はどうやって返すんですか?」
「心配あらへん。返そうと思えば、働かんでも返すことができる」
ボスの少しくぼんだ目は、確信に満ちていた。
田内 学
お金の向こう研究所
代表
注目のセミナー情報
【海外不動産】12月18日(木)開催
【モンゴル不動産セミナー】
坪単価70万円は東南アジアの半額!!
世界屈指レアアース産出国の都心で600万円台から購入可能な新築マンション
【事業投資】12月20日(土)開催
東京・門前仲町、誰もが知る「超大手ホテルグループ」1階に出店!
飲食店の「プチオーナー」になる…初心者も参加可能な、飲食店経営ビジネスの新しいカタチとは?
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】
「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】

