1人1,000万円の借金
日曜日の午後、優斗は駅前で七海と待ち合わせてから、バスで病院を訪れた。市内でいちばん大きいその総合病院には、何度かお世話になったことがある。
正面玄関を通り抜けて、「病棟はこっちですよ」と優斗が案内したとき、七海が急に立ち止まった。
「どうしたんですか」
優斗があわてて声をかける。
七海は下を向いたまま深呼吸をして、すぐに顔をあげた。
「ちょっと立ちくらみしただけ。もう大丈夫」
心配になって、さらに声をかけようとしたが、彼女がふたたび歩き出したので、優斗は黙って後ろをついていくことにした。
5階に上がって面会の受付をすませると、研修中のバッヂをつけた看護師が、ボスの病室の前まで案内してくれた。そのドアは、他の部屋よりも明らかに大きかった。
コン、コン、コンと七海がノックをする。
部屋の中から「どうぞ」という声が聞こえ、彼女はゆっくりとドアをスライドさせた。
広い室内は、ホテルの一室のようだった。ベッドはもちろん、書斎デスクや大型の壁掛けテレビ、冷蔵庫も置かれている。応接セットのソファには、パジャマ姿の男性がちょこんと座っていて、こちらを向いていた。
「おお、君たち。よう来てくれたな」
と言って、その男は右手をあげた。いつもと違うパジャマ姿のせいか、ボスが弱々しく見える。
「検査入院とお聞きしましたけど、お体は大丈夫なんですか?」
七海が心配そうな声でたずねながら、ボスと向かい合うソファに腰を下ろした。優斗もその隣に座る。
「ちょっと体調崩しただけやのに、念のために検査入院しろと言われてな。昨日から来ているんや」
彼の話では、前回1月に会って以来、仕事が急に忙しくなって、2人と会う時間も、病院で検査する時間もとれなかったらしい。その説明はもっともらしく聞こえた。
時間を惜しむように、ボスは早々に本題に入った。
「とにかく、学ぶのを止めたらあかん。この前の続きの話をしよか。七海さんはたしか、日本の抱える借金にわだかまりがあったんやな」
「そうです。借金の話でした。日本政府は1,200兆円の借金を抱えていますから、1人当たり1,000万円を負担することになります」
巨額の借金があることは知っていたが、1人当たりの金額を聞いて、優斗にも実感が湧いてきた。
「1人1,000万円もあるの!? それ、うちの兄ちゃんの借金どころじゃないじゃん」
七海が不思議そうな顔を優斗に向ける。
「お兄さん、借金してるの? まだ、学生よね」
「大学行くのに奨学金で300万円借りるって言ってました。それでも相当悩んでいるのに、そんなに借金があるんですね。でも、僕らが返すわけじゃないんでしょ」
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