格差を減らす大富豪
ボスは新しい紅茶を2人についでから、ヒントを出した。
「さっきの僕の話に出てきた会社には、共通点があったんや。スマホの会社、検索エンジンの会社、SNSの会社、ネット通販の会社」
やがて、答えがわかったと言わんばかりに、七海がツヤのある茶色い髪をかきあげた。
「どの会社の創業者も、さっきお話しした1台のバスに乗っている大富豪ですね」
「いやあ、大正解やな」
とボスは笑顔を見せた。喜びながらも、答えられた悔しさをにじませるところに、彼らしさを感じる。
「みんなを等しく便利にした会社の創業者が、結果的に大金持ちになったんや」
ボスの説明に、七海がため息をつく。
「そういうことでしたか。格差を縮めるサービスを提供しているのに、お金持ちだという事実だけが切り出されていたんですね」
「もちろん、金銭的な格差も小さいほうがええで。せやけど、その中身を見ないでむやみに批判するのはあかん。自分の立場を利用してずるくもうけるお金持ちと、みんなの抱える問題を解決してくれたお金持ちとでは意味が違うんや」
会社がみんなの問題を解決しているという事実に、改めて気づかされる。優斗はあの2人のことが気になった。
「エンジェル投資、でしたっけ? ボスがその投資をしているさっきの会社は、どんな問題を解決しているんですか?」
「学習支援AIの開発や。実現すれば、地方でも安くて質の高い教育が受けられるようになるやろな。未来への蓄積のためにも、暮らしを良くする会社が増えんとあかん。そういう会社が軌道に乗るまで、僕は投資によって支えたいんや」
しかし、そのボスの想いを、優斗は素直に受け取れなかった。
「でも、お金もうけも大事なんですよね? 廊下で待っているときに、聞こえてきましたよ。もうからないなら働く人を減らしたほうがいいって」
優斗の突きつけた証拠に、「そうやで」と肯定したボスは、ひるむどころか胸を張って、言い切った。
「もうからない投資は、社会への罪や」
ボスのその表情からは、ただならぬ覚悟が伝わってきた。
田内 学
お金の向こう研究所
代表
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