捨てることのできるチケット
あのとき、ボスの部屋で見た得意げな笑顔は、優斗への挑戦状に見えた。ベッドから起き上がり、勉強机のライトをつける。
「めんどくさっ」と口ではつぶやいたが、謎を解き明かす意欲に火がついていた。
ノートを開いて、ボスの言葉を書き留める。
「1人ひとりにとっては価値があるが、全体では価値が消える」
なぞなぞのような言葉を見つめながら、優斗はスマホに手を伸ばした。
検索すると、すぐにボスの話に関連する情報が見つかった。焼却される古い紙幣は毎年30兆円ほどらしい。
マジかよ、と優斗は思う。
30兆円の札束を積み上げると300キロメートルの高さにもなるそうだ。それは国際宇宙ステーションまでの距離に匹敵する。
ボスに見せつけられた札束の山にも驚おどろかされたが、それが宇宙にまで届くとは。そんな札束の柱を燃やすなんて、もったいないどころではない。頭の中で、そびえ立った札束柱が倒れてくる。空から降ってくる一万円札に人々が群がる様子を想像した。
燃やしているのは、紙幣を発行する日本銀行だという。
財布に1枚だけ入っていた千円札を取り出して、ライトの下でじっくりと眺めてみた。細かい模様がびっしりと描かれた紙には、しっかりと“日本銀行券”と書かれている。
“券”というとチケットのことだ。
不思議な感じがした。クーポン券や、映画のチケットと同じだろうか。いちばんなじみのあるチケットは、トンカツさくまの千円分の食事券だ。スタンプを10個ためたお客さんだけに渡している。
そういえば、こんなことがあった。店の手伝いをしていた優斗が、客から受け取った食事券を破り捨てたときのことだ。たまたま、遊びに来た友人が驚いた顔をしたのだ。
「もったいねーな。捨てるんだったら、俺にくれよ」
友人には、千円札を破り捨てているように見えたのだ。クーポン券にしても映画のチケットにしても、利用する側には価値がある。しかし、発行する側にとっては何の価値もない。
それと同じ感覚で一万円札を燃やすというのだろうか。ノートに書いた言葉を、ふたたび読んでみる。
「1人ひとりにとっては価値があるが、全体では価値が消える」
田内 学
お金の向こう研究所
代表
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