(※写真はイメージです/PIXTA)

映画『マルサの女』で有名になった国税局査察部(通称マルサ)。特定の税務署に設置される「特別調査部門(トクチョウ班)」はその登竜門ですが、トクチョウ班は案内板にも職員録にも記載されない“シークレット部隊”だと、元マルサで税理士兼住職の上田二郎氏はいいます。上田氏が「トクチョウ班」統括官時代、実際に担当した「脱税事件」を紹介します。

報告書から明らかになった「巧妙な脱税スキーム」

太石調査官から渡された報告書を眺めていると、給与台帳では800万円になっている長男の給与が、住民税台帳では400万円になっていることに気づいた。

 

筆者「住民税の申告額がおかしいんだけど、間違いではないよね」

太石調査官「市役所がデータをアウトプットしているので間違いありません」

筆者「事務所の給与台帳と金額が違っている……」

 

詳しく確認したが、支給額に違いがあるのは長男だけだった。

 

税理士事務所とあれば、源泉徴収票を作るのは簡単だ。さらに、税務署と市役所に出す源泉徴収票の金額を変えることもできる。税務署の調査は甘くないので国税の不正はできないが、住民税の単独調査はほとんど行われていないためだ。

 

税理士事務所にしてみればある意味“やり放題”で、住民税と国民健康保険料が連動していることから免れる税額は大きい。マイナンバー制度の施行前にこの手口を見破ることは難しく、長男は10年以上も源泉徴収票の偽造を続けていたのだった。

 

結局、税理士の調査は中退共の掛金を否認するだけの少額な修正申告になったのだが、本事案は国税と住民税、社会保険料の課税標準が連動しているなか調査が手薄な「住民税」だけを狙う巧妙な脱税スキームであった。

 

もし太石調査官が筆者の指示どおり、住民税の調査を退職した30代の女性のみに絞って終わらせていれば、決してこの不正は見つからなかっただろう。偶然が生んだ展開だった。

 

脱税が見つからないよう税理士の申告所得を減らす「カラクリ」

税理士の申告所得はここ10年間、240万円で安定していた。仮にこの金額(月額20万円)を税理士からの名義借り料だと考えると、それ以外の事務所のお金は先代税理士の長男と次男が自由に差配できる。しかし、確定申告書は税理士名義で出さなければならないため、脱税が見つかると自己脱税で処分対象になる。

 

しかし、30代女性から名義を借りて少額の架空給与を支払っても、源泉徴収さえしておけば調査で見つかる可能性は小さい。そして、その名義で支払った中退共掛金は税理士事務所の経費になり、退職させると退職金を自分のお金にできるという仕組みだ。

 

架空給与も中退共掛金も、税理士の申告所得を減らすにはもってこいだ。税理士は自分の確定申告内容すらも知らされていないのかもしれない。

 

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