損害賠償義務の可能性以外にも注意すべき点
本件では、辞任を希望する取締役以外にも他の取締役が存在するようですが、実務上は、辞任したい取締役がその会社の唯一の取締役であるというケースが多いといえます。
その場合の対応について規定する具体的法令はありませんが、取締役が、総務を担当する自身以外の有限会社の唯一の社員(株式会社の場合における株主)に辞任届を交付したという事案で、辞任を認めたという裁判例が存在し(仙台高判平成4年1月23日金判891号40頁)、参考になります。
また、実務上は、自身以外の社員・株主すら存在しないケースも存在しますが、その場合には、その会社のオーナー的立場の者に辞任の意思表示を行うことも検討すべき余地があると考えます(野村直之「判批」判タ821号196頁(平成5年)参照)。
以上のとおり、取締役の辞任は単独行為として原則自由に行うことができるものといえ、仮に自身以外の取締役が存在しない場合でも辞任は可能ですが、前述した「安全な辞任」との関連で、損害賠償義務の可能性以外にも辞任において注意すべき点があります。
それは、辞任により会社の取締役・代表取締役が不存在になってしまう場合や、会社の定款上の取締役・代表取締役の最低人数を欠く場合には、辞任した取締役が権利義務承継(代表)取締役となり、辞任後も取締役・代表取締役としての義務から解放されない場合があるという点です。
この点、会社法346条1項が、
「役員(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役若しくはそれ以外の取締役又は会計参与。以下この条において同じ。)が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。」
と規定し、会社法351条1項が、
「代表取締役が欠けた場合又は定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した代表取締役は、新たに選定された代表取締役(次項の一時代表取締役の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお代表取締役としての権利義務を有する。」
と規定するとおりです。
このような事態を解決する手続きとしては、会社法上、「一時役員の職務を行うべき者」(会社法346条2項)の選任制度が規定されているため、同制度の活用を検討することが必要な場合も存在することにつき注意が必要です。
また、質問の趣旨からは離れますが、そもそも、自身や協力者が全株式を保有する会社において、自身らのみが取締役の場合で、第三者から事実上の口出しや業務への介入をされているだけであるといった場合には、辞任ではなく、会社を清算(会社法475条1号)するという方法により事案を解決させることについても検討の余地があります。
森江 悠斗
弁護士
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