独立をしてみたくても、損得勘定で「リスクの少ないほう」へ
つぎに、独立の意思に目を向けてみよう。
「2022年ウェブ調査」では、企業などの組織で働く人に対し、まず「将来、チャンスがあれば独立したいと思いますか?」と聞いてみた。すると、「思う」が26.9%とほぼ4分の1だった。年代別では20代が36.4%で最も多い(図表1)。
そこで、こんどは「自ら転職や独立をしないほうが得だと思いますか?」と質問した。その結果、「そう思う」「どちらかといえば、そう思う」が計51.1%と過半数に達した。ちなみに20代も51.8%で全体の数値を若干上回っている(図表2)。
これらの結果から、日本企業ではいまの職場が気に入っているので働き続けたいという人がいる一方で、転職や独立をしてみたいという気持ちはあっても、損得勘定をしたら割に合わないと思い留まっている人がかなり多いことがうかがえる。
それを裏づけるような調査結果がある。
日本財団が2022年、アメリカ、イギリス、中国、韓国、インド、日本の18歳の人を対象に行った「第46回 国や社会に対する意識(六カ国調査)」では、「多少のリスクが伴っても、新しいことに沢山挑戦したい」「多少のリスクが伴っても、高い目標を達成したい」という回答の割合は他国と比べ際立って低く、いずれも5割を下回っている。
また経済産業省の「起業家精神に関する調査」によると、起業家や起業活動をしている人の割合を表す「起業活動率」は、今世紀に入ってからおおむね5%以下で推移しており、アメリカ、イギリス、フランスなどの先進国、それに韓国と比べても低くなっている。
転職・独立に、有望なキャリアを見出しにくい日本社会
年功制の大枠が残っている日本企業では、一部の専門職や傑出した能力の持ち主でないかぎり、転職すると給与が下がる可能性が高い。年金、退職金などの福利厚生を含めたら、いっそうその差が大きくなる。
そもそも日本にはシリコンバレーに象徴されるアメリカなどと違い、だれもが起業して成功する夢を描け、かりに失敗しても再挑戦できるような社会的、経済的、文化的条件が整っていない。
近年は日本でも公的あるいは民間のさまざまな起業支援が整いつつあるが、それでもアメリカなどに比べればサポート体制が十分ではなく、失敗した場合の損失も大きい。下手をすると自分の財産をすべて失い、生活に困窮するような事態に陥りかねない。
このように日本では転職・独立など、外部に有望なキャリアの選択肢が見出しにくく、それが将来への大きな夢や希望を抱くことを困難にさせている。
若者がしばしば口にする「成長したい」という言葉から真剣味が伝わってこないのも、成長した先に魅力的な将来展望が描けないからだろう。
太田 肇
同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科
教授
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