金融機関担当者の言葉に唖然
姉妹は上物を建てるための融資の相談をしようと、メインバンクの営業担当者を呼んだ。
そのときの対応がひどかった。
「融資を受けたいのですが、と話をしましたら『私に言われてもできません』と言われてしまいました。こちらは、あなたに言うほかにないじゃないですかって、唖然としました」(澄江さん)
これまで長年の付き合いがあり、ローンの履歴もある。ほとんど借入がなく、担保に充分な土地もある。これ以上貸しやすいプロフィールはない。本来なら逆にメインバンクから融資の提案があってもおかしくないのだが、「できません」とは予想外のことだった。
金融機関にはこういう担当者もいるのだ。これも一つの“地主を取り巻く真実”と言えるかもしれない。
まるで話にならないので、姉妹はハウスメーカーA社が紹介した地銀のM銀行に融資を申し込んだ。
後日、メインバンクの営業担当者が支店長を連れてあいさつに来たときには、すでに建築が始まっていた。「もう遅い! と父が断って、帰ってもらいました」(澄江さん)
上物は2棟ともハウスメーカーA社の紹介で、M銀行の融資で建てた。支店長が近藤家に挨拶に行き、交渉はスムーズに進んだ。スムーズに進んだのには理由があった。
融資の交渉をハウスメーカーA社の営業担当者にまかせたのだ。私がよく話しているのは、借主が直接交渉するよりもエージェントを介在させるほうが有利だということだ。
銀行にとって「ハウスメーカーA社」という名前は大きな意味を持つ。A社は多くの顧客を持っており、適切に対応すれば新規顧客を開拓できる可能性が高い。A社もよい条件で借りられれば、事業性がよくなる。
お互いにメリットがあるので、メーカーの営業担当者に一任するのが最も効率的だ。ただし、営業担当者の能力差もあるので、ここは担当者の能力をよく見て判断したほうがよいだろう。
賃貸マンションの状況
このマンションは2棟とも常に満室で、空室が出るとすぐに埋まる理想的な状況だ。どちらも東京へのアクセスがよく、住環境のよいエリアだ。
「買い物に便利で病院も近く、私たちが住みたいほどの場所です」(澄江さん)
管理は基本的に専門の会社にまかせているが、お2人は月に1回、物件の周囲の草取りなどをしている。
「見た目が重要なので。草が伸び放題だと見栄えも悪いし、敬遠されることもあるでしょう」(澄江さん)
「自分たちの所有物である以上、綺麗に保ちたいと思います」(佳代子さん)
物件の管理のスタイルは人によって違う。管理会社にすべてまかせ、見に行くことがないという方もいれば、自分自身で確認し、管理することで安心するという人もいる。姉妹のように物件に愛着を持ち、自分たちで手をかけるのは非常によいと思うが、どちらが正解ということはない。それよりも、自分で物件を選び、建てるという意識が重要だ。
親や親戚から引き継いだ不動産は選べないが、購入した不動産は、自分が気に入ったものを選んでいるということだ。それが愛情を深めることになるかもしれない。
古い不動産を新しいものに「替える」という概念
倉庫からの家賃収入はそのまま継続され、売却したアパートの分は収入がなくなった。しかし、2棟のマンションを建てたことで、収入は増えた。ローンはあるがそれを払っても手元にキャッシュが多く残るという状態だ。
ただアパートを売却しただけでは、お金は得ても何かを失ったような気持ちになる。古くから長いこと活躍してくれていたものが、別のものになって活躍してくれるようなことをイメージするとよいかもしれない。まさに「交換した」というイメージだ。
かつては地主が自治体に土地を提供し、代わりに別の土地をもらうことがあった。これの現代版と考えてもよいだろう。
不動産は「動かない財産」であるが、逆に動かせるものと考えることが、これからの時代のキーワードだ。
松本 隆宏
ライフマネジメント株式会社
代表取締役
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