都心部の商業ビルの相続をめぐり、兄弟関係に深い亀裂
相談例
都心部の3億円超の商業ビルを所有していた父親が死去し、相続が発生。相続人である子どもは3人。相談者は長男。
父親亡きあとのビルの運営は、長男が主導して管理会社や清掃業者の手配を行うなど、積極的に行っていた。ビル自体は非常に価値が高く、毎月の賃貸収入も高額。こうした背景から遺産分割は簡単ではなく、まずは兄弟3人の共有として相続し、長男が賃貸ビル運営を行い、二男・三男には賃料の一部を一定の割合で支払うことで落ち着いていた。
ところが、二男・三男は長男の行動に疑念を持ちはじめた。管理会社や清掃会社とつながりがあることから、
●賃貸料が正確ではなく、ごまかされているのではないか
●管理会社・清掃業者からキックバックがあるのではないか
と疑っている。
長男は「2人はすべて人任せ。全員のためを思って、あちこちひとりで駆け回っていたのに許せない」と、憤りを抑えきれない。
しかし、結果的に長男対二男・三男という敵対関係となり、共有物分割訴訟に発展するなど、大きなトラブルになってしまった。
「無責任な相続人+強欲」で資産が消える
先代の資産を無理なく相続するには、相続人同士の協力が不可欠です。しかし、相続人がバラバラになって自分の利益の追求を始めると、抜け駆けで得するどころか、大切な資産自体が雲散霧消することになりかねません。
弁護士として多数の相続問題にかかわってきましたが、上記の事例のように、東京都心部等の地価の高いエリアに、先祖代々の土地を保有している方々のケースでは揉めやすいといえます。
先代が商業ビルを建設するなどして資産活用を行っていても、相続するタイミングになると、建物の老朽化が進んで継続利用が難しくなっていることも多々あります。しかし、建物自体は古くて、も土地の評価額が高いことから、相続税額が高額となり、納税資金の準備が大変なのです。
理想的なのは、被相続人が遺言書を残して資産の配分を明確化し、保険金等で納税資金を準備しておくことですが、実際には、そこまで周到な方は少数派です。
皮肉なことに、多額の資産を保有している方の相続人は「次期資産家」という意識ばかりが先行し、不動産経営や相続の知識を持とうとしないことが多いのです。つまり、相続の見通しが甘く、現実が見えていない状態だといえます。
たとえば、商業ビルや賃貸マンション1棟に対して相続人が複数いたとします。不動産は均等に切り分けることはできませんから、相続人の意見のすり合わせと合意が必要になりますが、話し合いが紛糾することも珍しくありません。
相続人同士で揉めている間に時間は過ぎていき、相続対策が可能なタイミングを逃してしまい、高額な相続税を支払えず、せっかくの価値ある遺産を、業者の言いなりの金額で急ぎ売却することになります。
収益物件だけではありません。先祖から受け継いだ広い土地の価格が、地域の土地開発などの影響で高額となっているにもかかわらず、人任せにしたまま具体的な行動を起こさない所有者・相続人も多いのです。
そして、いざ相続の段になると、事例の相続と同様、相続人の「無責任+強欲」によってこじれにこじれ、結局は手放すことになってしまいます。せっかくの価値ある相続財産も「無知と無策」によって消えてなくなってしまうのです。それだけではなく、親族間には修復不可能な亀裂が入ってしまいます。
相続人それぞれが「自分事」として考える姿勢が必要
相続により、資産を着実に承継している資産家は、事前対策をとるのはもちろん、介護や資産管理といった相続前の大変な問題について、ひとりひとりが自分事とし、向き合っています。
老親の面倒をだれが見るのか、見ない・見られない子どもはどのようにかかわるのか。相続対策も人任せにするのではなく、自分から行動し、得られた情報をほかの相続人と共有し、風通しのよい状態を維持する。
このような協力関係があってこそ、次世代への資産承継が実現します。大変なことから逃げ、抜け駆けしていい思いだけをしようと画策する相続人がいる限り、財産の散逸のリスクからは逃れられないといえます。
(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)
山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦
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