石橋をたたいても渡らない…コロナ禍で“保身”に走った「公務員」のリアル【同志社大学教授が解説】

石橋をたたいても渡らない…コロナ禍で“保身”に走った「公務員」のリアル【同志社大学教授が解説】
※画像はイメージです/PIXTA

新型コロナウイルスが国内で一気に広がった2020年に、多くのイベントや行事が中止となったことは記憶に新しいでしょう。なかでも行政や地域の各種団体が主催の公的イベントは過剰なまでに中止になりました。これにはどのような背景があるのでしょうか。本記事では、同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科教授の太田肇氏による著書『何もしないほうが得な日本 社会に広がる「消極的利己主義」の構造』(PHP研究所)から、日本の公務員について解説します。

公務員の主なモチベーションは「承認欲求」

公務員の「損得勘定」

ここで職員個人の立場から、前向き(積極的)な行動をとることの「損得勘定」を、あらためて考えてみよう。

 

損得勘定というと、あまりにもドライで現実離れしている印象を受けるかもしれない。しかし人間は意識しているか否かは別にして、損得を計算しながら行動する。

 

ただし、「損得」のなかにはお金やモノのほか、快楽、名誉、肉体的・精神的負担、さらに他人や社会に対して貢献することや正義を貫くことから得られる満足感など、あらゆる要素が含まれる。

 

しかも短期的な「損得」だけでなく、将来の生活やキャリアなども当然、視野に入る(もっとも、どれだけ冷静かつ合理的に考えられているかはわからないが)。

 

結論を先にいうと、公務員のモチベーションはきわめてもろい基盤に支えられていて、不安定な均衡状態にある。そのことを理解しておく必要がある。

 

まず公務員の価値観、すなわち彼らが何に価値を置いているか見ることにしよう。

 

人事院が2019年に国家公務員総合職(いわゆる「キャリア組」)試験等からの新規採用職員を対象に行った意識調査によると、国家公務員になろうとした理由は「公共のために仕事ができる」(67.9%)、「仕事にやりがいがある」(65.3%)が一、二位を占めている(三つ選択の複数回答。回答数772)。

 

いっぽう「キャリア形成として有効である」「堅実で生活が安定している」という功利的な動機は、いずれも11.9%で最下位になっている。

 

ちなみに地方公務員を対象に調査を行っても、「地域に貢献したい」「住民のために役立ちたい」といった回答が必ず上位にくる。大多数の公務員にとって、国民・住民のために役立つことや、社会に貢献することが大きな志望動機であり、また働きがいにもなっているのだ。

 

公務員は「承認欲求の強い人」が選びやすい職業

見逃してはならないのは、このような貢献意欲や奉仕の精神は多くの場合、サービスの受け手である国民・住民からの感謝や承認によって支えられているという事実である。

 

かつて、いくつかの自治体で職員を対象にアンケートを行い、どんなときに最も「うれしい」と感じたかを尋ねた。すると、ほぼ半数の人が周囲から認められたこと、ほめられたことをあげた。

 

たとえば「用地交渉で住民の理解を得られるよう粘り強く話し合った結果、相手から信頼してもらえるようになった」とか、「あなたは公務員らしくない、とほめられた」というようなエピソードがたくさんあげられている※2

 

このように公務員のモチベーションは多くの場合、国民・住民からの承認によって支えられていることがわかる。公務員にとって承認こそ最大の報酬なのだ。

 

それは、おしなべて彼らの承認欲求が強いことの裏返しでもある。その理由を端的にいえば、もともと高額の報酬より社会的承認を重視する人が公務員という職業を選ぶこと、ならびに無形の報酬としての承認を受け取るなかで承認への関心がいっそう強まること、その両方が考えられる。

 

※2:太田肇『公務員革命』筑摩書房、2011年、67頁

 

 

太田 肇

同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科

教授

 

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太田 肇

PHP研究所

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