住宅ローンの残期間は32年…早く終わらせたいというが
今回の事例として取り上げる相談者は、「個人の生命保険を一度見直してほしい」という経営者。家族構成は社長50歳、奥様41歳、長男15歳。
この経営者は某県の県庁所在地で事業を営み、初めて伺った自宅は3年前に郊外の丘陵地にこだわって建てたという、邸宅というのに相応しい住まいでした。立派なリビングに通されてから保険の内容を拝見すると、死亡保障が手薄で医療やガンの保障はそれなりに手当ができており、非常に合理的な内容の保険契約に思えました。
ただ死亡保障が手薄なことが気になったので事情を伺うと「住宅ローンは団体信用生命が付いているので死亡保障は最低限で良い」とのことでした。そして社長自身が亡くなっても、一緒に事業をされている奥様が後を継いで細々と事業を続ければ、「住宅ローンの返済はなくなっているので、役員報酬と最低限の保険金があれば生活には困らずにやっていける」と判断したとのこと。その分、医療やがんの保障を手厚くし、個人年金保険料控除なども上手に活用しながら年間約100万円の保険料を支払っていました。
なかなか合理的な内容で「さすがは社長ですね。無駄を削ぎ落とした素晴らしい内容だと思いますよ」と伝えると社長も満足そうな表情をしていました。「こんなに合理的な保険に加入されているのに、私に見直しを依頼されたのは何か理由があったのですか?」と質問をすると、以下の2点を挙げました。
・前に保険の見直しをして5年が過ぎたので再度チェックがしたかった
・いまは住宅ローンを早く終わらせたいので、10年で残債約5,000万円を積み立てして繰上げ返済がしたく、その資産形成の方法について相談がしたかった
それを受けて筆者からは「社長のお気持ちは十分に理解できるのですが、果たして本当に繰上げ返済をすることが得策でしょうか?」と問題提起しました。
住宅ローンの残期間は32年、ローンが終わるころには社長は82歳になっています。厚生労働省の統計データによると、50歳男性の平均余命は32.51歳。年齢的には非常に微妙な期間です。「無理に繰上げ返済をして手元現金を減らした状態で歳をとるのが良いのでしょうか。それとも手元現金を減らさずに亡くなられた際にはローンを完済して手元現金は奥様とお子様に相続するのが良いのでしょうか」とお伝えしました。
住宅ローンの金利も10年固定金利で1%を切る良い条件なので、手元にお金を置いて年間1%以上の運用益が出すことができれば十分にメリットがあると思いました。
郊外の丘陵地に建つこだわりの邸宅…20年後のリスク
さらに筆者から「20年後、お子様が35歳になられた時に、どこにお住まいで、どこで仕事をされているかは正直分かりません。実際に社長はお子様に『こんな田舎にいてはダメだ。息子には後を継がせない。東京の大学に行って東京で起業しろ』とおっしゃっていますよね? となると万が一、社長が亡くなられた後に、奥様が郊外の丘陵地にある邸宅にずっとお一人で住み続けるのでしょうか? お若いうちは良いですが、歳を取って車の運転ができなくなれば、外出もままなりません。市街地のマンションへ移られる可能性も否定はできませんよね? その際、素晴らしい一軒家とはいえ、地方都市にあり築20年以上経過して、市街地まで車で15分ほど掛かる距離にあるこの家が売れるでしょうか?」と現実的な問題提起をしたところ、夫婦は真剣に考え込まれました。
現在、深刻化しつつある空き家問題と同じことが起きる可能性も十分にあります。いくら素晴らしい邸宅でもローンが終わるまでは銀行から借りて住んでいる様なものです。極論をいえば、銀行に引き取ってもらえば空き家問題が発生しないのでそのほうが合理的かも知れません。いろいろと考えていくと、繰上げ返済をするデメリットが浮き彫りになってきます。
ちなみに相続放棄をして自宅を相続しなかったとしても、管理義務は放棄されないので、相続放棄は空き家問題の解決にはなりません。さらに、建物を壊して土地だけにしても不法投棄などの問題が残るだけでなく、固定資産税の負担問題も免れません。「少し生々しいですが、この辺りまで考慮してライフプランを考える必要があるのでは?」と伝えたところ、夫婦ともにさらに考え込みました。
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