仕事を受注している中堅ゼネコンに「信用不安」の噂が…
X社長は、筆者のクライアントであるY社長の紹介で地方から大阪まで相談にやってきました。
「仕事を受注している中堅ゼネコンA社について信用不安の噂が出ています。売掛債権が約2,000万円あり、このA社になにかあると当社は壊滅的なダメージを受けます。売掛債権を補償する保険があると聞いたのですが……」
X社長もY社長も、A社から工事を受注しており、現場でよく顔を合わせてはA社の噂について雑談をしていたそうです。そんな折、Y社長が「ウチは売掛債権に保険を掛けているし、その他万全に手配をしているから大丈夫」といったのがきっかけで、X社長は心配になったようでした。X社長は売掛債権が回収できなくなるかもしれない不安で、夜も眠れず憔悴した様子です。
経営者にとって新規営業以上に重要なテーマは取引先の与信管理です。
仕事を受注しても代金を支払ってもらえなければ、大損失を被ることになります。そのために経営者は仕事を受注する以上に、取引先の与信管理には細心の注意を払っています。
売掛債権を保全する金融商品として、①銀行などが手がけるファクタリング②保証会社が行う債権保証商品③損害保険会社が販売している取引信用保険などが挙げられます。
このうち損害保険会社が取り扱う取引信用保険は、取引先が倒産や会社更生手続きなどの際に回収できなくなった売掛債権について、契約時に定めた一定割合で補償する保険商品です。保険を付保する際には保険会社による与信審査があり、取引先の与信状況によって補償される売掛債権の割合が決まります。
なお与信状況が芳しくない場合には、補償対象から除外されることもあります。
X社長にこの取引信用保険の概要を説明し、全取引先リストと取引先ごとの債権残高のリストの提出を依頼。数日後、届いたリストに基づいて保険会社数社と打合せを行い、各保険会社へ与信調査の依頼を行いました。
その結果、A社の債権に対して補償が提供できるとしたのは損保B社のみでした。他社は、与信状況からみてA社債権は引受できないとの回答です。
しかし、A社に対する債権残高約2,000万円に対して、B社が補償できるのは1,000万円のみとのこと。ほかの保険会社がA社債権の引受を断ったことを考えれば1,000万円でも十分といえるかもしれませんが、残り1,000万円の補償についても手当てをしておく必要がありそうでした。
X社長はその点については納得しているようでしたが、不足分の1,000万円が気になっていた筆者は契約後に社長を訪問し、対策の打ち合せを持ち掛けます。決算書などをみると、資産勘定に「前払保険料」が数百万円計上されているのをみつけました。この内容について尋ねると、取引先との付き合いで解約返戻金があるタイプの生命保険に加入しているとのことでした。
内容を確認すると、この生命保険商品には約1,000万円の解約返戻金があることが判明。そのため、万が一A社が倒産した際の取引信用保険の保険金が貸倒債権に対して不足した場合には、この解約返戻金を資金繰りに活用する方法があることを説明しました。
社長も1,000万円の不足部分は気になっていた様子でしたので、この説明を聞いた社長は安堵し、「これで夜も眠れそうです」と笑いながら話していました。