(写真はイメージです/PIXTA)

医療法人の「社員総会」における議決権の考え方は、一般的な株式会社のそれとは異なります。誤解したままでいると、今回事例として取り上げる67歳・理事長のように突如退任させられてしまうリスクも。本稿では、株式会社FPイノベーションの代表取締役・奥田雅也氏が医療法人運営に関する“落とし穴”について解説します。

「現在は別居している」…依頼人の微妙な夫婦関係

某県某市にあるXクリニックのA理事長から生命保険の相談依頼があったのは数年前のこと。このXクリニックは地域医療を担うクリニックとして根付いており、地域にとっては無くてはならない存在でした。

 

A理事長から、自身に万が一のことがあった場合に医療法人が困らないように生命保険を検討したいと相談があり、面談を実施しました。「生涯現役で頑張るつもりです」と語る理事長は当時60代前半で血色も良く、非常に意欲的にクリニック運営に取り組んでいました。

 

医療法人の申告書や決算書、個人の確定申告書などに目を通し、万が一の際に法人と個人が必要になる資金を算出した上で、それをカバーできる生命保険を提案。なにもなければA理事長の退職金原資になる積立性の生命保険を契約してもらいました。

 

A理事長は提案内容を気に入ってくれましたが、数回の面談のなかで「夫婦仲が悪く、現在は別居している」と話していたことは気になりました。

 

外部の人間としてあまり深く立ち入れない領域ではありますが、A理事長の話では、奥様は他所に親しい男性がいるらしく、どこで暮らしているかよくわからないようでした。筆者はそれ以上家庭の事情には踏み込めず、曖昧な返事をするほかありませんでした。

「理事長名義の保険を解約したい」と連絡してきた女性とは?

契約後もA理事長とは定期的に面談を行い、契約内容の確認や法人の経営状況の確認などをしていましたが、事態が急変したのはいまから2年前。コロナ禍で医療機関への訪問が思うようにできなくなった頃のことでした。

 

地域医療を担っているXクリニックですから、コロナ禍においては多忙を極めていると思い、A理事長への接触を控えていたところ、Xクリニックの事務長と名乗る女性・B氏から筆者の事務所に、「A理事長名義の生命保険を解約したい」との連絡があったのです。

 

筆者にとっては寝耳に水。びっくりして「A理事長のご意向でしょうか。できればA理事長と直接お話をしてご意向を確認したいのですが」と切り返したところ、B事務長は「理事長は退任したので、医療法人にはおらず連絡が取れません。解約の手続き書類を送ってください」の一点張りでした。

 

とりあえず筆者は「書類の準備をして対応します」とだけ伝えて電話を切りましたが、電話を切った後もずっと考えこんでしまいました。あれだけ精力的に医療法人経営・クリニック運営を行っていたA理事長が突然退任とは……。どうしても納得できません。

 

あわててXクリニックのホームページを確認すると、たしかに院長の名前は変わっていました。ホームページには理事長や院長交代の記載はなく、A理事長の存在は跡形もなく消え去っていたのです。

 

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