(※写真はイメージです/PIXTA)

明治時代初期(1870年~1880年代)、日本経済はインフレからデフレへと転じ、社会は「寄生地主制」の成立により、国民が「労働者」と「資本家」に二分されることに。資本主義化が進む当時の日本国内の社会情勢について、『大人の教養 面白いほどわかる日本史』(KADOKAWA)著者で有名予備校講師の山中裕典氏が、わかりやすく解説します。

官業払下げにより、のちの「財閥」の基盤が出来上がる

財政整理のもう一つの柱は官営事業払下げですが、これは歳出削減とともに、払下げを受けた民間産業資本の育成にもつながりました。実は、工場払下げ概則の廃止によって厳しい条件が無くなり、かえって払下げが増加しました。

 

三井・三菱などの政商は、このとき払い下げを受けた鉱山や工場などを基盤に資本を蓄積し、のちに財閥となる基盤を作っていきました

 

出所:『大人の教養 面白いほどわかる日本史』(KADOKAWA)より抜粋
[図表3]官営事業の払下げ 出所:『大人の教養 面白いほどわかる日本史』(KADOKAWA)より抜粋

 

唯一の発券銀行として「日本銀行」が設立される

国立銀行条例に基づく兌換制度(紙幣価値を正貨(金・銀)で保障)の試みは失敗したので、松方財政では政策と直結する中央銀行に兌換させるため、唯一の発券銀行として通貨供給の役割を持つ日本銀行(1882)を設立しました。

 

そして、国立銀行条例の再改正で、国立銀行の紙幣発行を停止しました(国立銀行は通常の預金業務を行う普通銀行に転換)。これらと並行して、余った政府所有紙幣のうち処分しなかった分で正貨()を買い入れました(正貨蓄積)。そして、不換紙幣整理で紙幣価値が上昇し、同額の銀と交換できるようになると、日本銀行が銀兌換券を発行し(1885)、銀本位制が確立しました。

 

また、デフレで日本物品が安価になると輸出が増え、その一方で外国物品の輸入は減少し、輸出超過(貿易黒字)の傾向がでてきました。

 

デフレ不況により農民の間でも格差が生まれ、資本主義化が進む

デフレ不況が広がると、米価や繭価が下落して農民の収入が減少する一方、支払う地租は定額なので、中小規模の自作農(土地を持つ)が困窮し、地租負担を避けて土地を売り、小作農(土地を持たずに借りる)に転落する者が増えました。こうした貧農の増加は、自由民権運動の激化事件を発生させました。のち、小作農の子女は家計補助を目的とする出稼ぎで、工場や鉱山などの賃金労働者となりました。

 

一方、地主豪農)は、手放された土地を集積し、寄生地主に成長する者も現れました。「寄生」は土地に寄生するという意味で、広大な所有地を貸して徴収する地代(小作料など)の収入だけで生計を立てられる者を指します。のち、寄生地主は工場経営や株式投資などで資本家となりました。

 

こうして、松方財政を契機に形成されていった寄生地主制は、資本主義との結び付きを強めていき企業勃興(1886~89)や1890年代以降の産業革命を支えたのです。
 

出所:『大人の教養 面白いほどわかる日本史』(KADOKAWA)より抜粋
[図表4]寄生地主制 出所:『大人の教養 面白いほどわかる日本史』(KADOKAWA)より抜粋

 

 

山中 裕典

河合塾/東進ハイスクール・東進衛星予備校

講師

 

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※本連載は、山中裕典氏による著書『大人の教養 面白いほどわかる日本史』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。

大人の教養 面白いほどわかる日本史

大人の教養 面白いほどわかる日本史

山中 裕典

KADOKAWA

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