相続放棄は後戻りできない…安易な即決はNG
長時間の説得の末、「数十万円」で決着
次の日、2人は車で県境にある達次さんの自宅へ伺いました。洋子さんからの提案で、「ダメ元でも直接会って話を聞いてもらおう」ということになったのです。
達次さんは、奥様のさゆりさんと2人暮らし。不機嫌そうな達次さんに対して、さゆりさんはにこやかに出迎えてくれました。
寛子さんは、達次さんに対し佐藤家の財産状況を正直に伝えたうえで、涙ながらにこう言いました。
「500万円を失ってしまうと、母はこれから暮らしていくことができません。どうか、満額は勘弁してください……」
達次さんは、なかなか首を縦に振りませんでした。しかし、寛子さんが時間をかけて思いを伝えたことや、さゆりさんのフォローもあり、最終的には「洋子さん側が、遺産として達次さんに数十万円だけ支払う」ということで話はまとまったようです。
相続人の定義は、民法で定められている
このような事件は、決して少なくありません。今回のように子どもが相続放棄をした場合のほか、子どもがいない夫婦などにも同様のケースが考えられます。
残された奥様だけが相続人になるつもりであっても、相続人の定義は民法で定められています。
- まずは、被相続人のご両親が相続人となります。この場合の相続分は、妻が3分の2、両親が合わせて3分の1です。
- また、被相続人のご両親が亡くなられている場合、その兄弟が相続人となります。相続分は、妻が4分の3、兄弟が合わせて4分の1となります。
相続放棄の多くは、財産調査後に債務が相続財産を上回ってしまう場合や、遠方に不動産があり自分では管理困難な場合、被相続人が疎遠な親戚であり関わりたくない場合など、マイナス要因によって検討されることがほとんどです。
また、相続放棄の期限は自分が相続人であることを知ってから3ヵ月となります。期間が短いからといってなんの知識もなしに安易に即決してしまうのは、大変危険です。
「相続調査に時間がかかる」などすぐに判断できない事由がある場合には、家庭裁判所に申し立てることで一定の期間延ばしてもらえる可能性があるため、頭に入れておきましょう。
「相続放棄」の効力は絶対…事前に専門家に相談を
ひとたび相続放棄をしてしまうと、その効果は絶対的であり、行った人物は“そもそも相続人ではなかった”ということになります。あとから「やっぱりやめた」というのは通用しません。
したがって、「相続放棄」を検討する際は必ず専門家に相談し、しっかり調査したうえで慎重に判断することをおすすめします。
また、子がいない夫婦の場合は「夫婦相互遺言」を活用し、すべての財産をパートナーに相続させたい旨を明確にしておくことが大切です。兄弟姉妹に遺留分は存在しないため、夫婦相互遺言を作成しておくことで、疎遠の兄弟に遺産を相続されることを防ぐことができます。
ただし、遺言を残す場合も法律が定める厳格な規定を満たさなければ、無効とされてしまいます。遺言を作成する際も、専門家や公証人を交えて「有効な遺言書」をきちんと作成することをおすすめします。
加陽 麻里布
司法書士法人永田町事務所
代表司法書士
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