(※写真はイメージです/PIXTA)

遺産のなかに収益物件が含まれている場合、遺産分割が終了するまで賃貸物件の収益を巡り、しばしば相続人同士でトラブルになるケースがあります。今回は、遺産分割前の賃貸物件の賃料収入をめぐる疑問について、実例を交えながらわかりやすく整理していきます。司法書士法人永田町事務所の加陽麻里布氏が解説します。

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収益不動産の相続…「遺産分割前の賃料収入」はだれのもの?

相続財産のなかに賃貸アパートなどの収益物件が含まれていた場合、「遺産分割が終わるまでの賃料収入」の扱いについて悩む方は少なくありません。

 

結論からいうと、相続前の賃料収入は相続人全員の共有財産として扱われます。すぐにだれか1人のものになるわけではありません。しかし、管理方法や分配の仕方、口座の扱い方によっては、思わぬトラブルに発展してしまうケースもあります。

 

賃貸アパートを相続したきょうだいの例から、典型的なトラブル例を見ていきましょう。

【事例】父親名義の賃貸アパートを相続した3人きょうだい

賃貸アパート1棟を所有していた男性が亡くなりました。遺言はなく、相続人は男性の子どもである3人のきょうだいです。

 

アパートからは毎月40万円の賃料が入り、亡くなるまでは父親名義の口座に振り込まれていました。しかし、銀行は契約者の死亡が判明するとその口座を凍結させます。父親の死後、銀行口座が凍結されてしまいました。

 

このままでは賃料の振り込みに差し障るため、賃料の振込先を新しい口座に変更しようとしましたが、だれの名義の口座にするべきか、きょうだい間で問題になりました。すると長男が「管理は自分に任せて!」といい出し、自分の個人口座を振込先に設定しました。

 

しかしその後、長男がほかのきょうだいに断りなく賃料を使っていることが判明し、トラブルへと発展してしまったのです。

トラブルを招きやすい3つのケース

民法898条に基づき、遺産分割が完了するまでの間、不動産そのものだけでなく、そこから発生する賃料収入も相続人の共有財産となります。より厳密には、下記の2段階で整理されます。

 

●相続開始時点で発生している未収賃料(賃料債権)=相続財産

●相続開始後に発生する賃料=共有財産

 

いずれにしろ、遺産分割が終わるまでは、相続人のだれかが勝手に使ったり、自分のものとして扱ったりすることはできません。無断で使えば「不当利得」や「共有物の管理権限の逸脱」として、法的に問題になる可能性があります。

 

トラブルを招きやすいのは次のようなケースです。

 

①相続人の1人が無断で賃料振込口座を変更し、収益を独占する

②管理を任された相続人が「経費」と称して賃料を使い込む

③他の相続人に報告せず、賃借人と契約更新などを進めてしまう

 

こうした行動は、後々の信頼関係を壊すきっかけになりやすいのです。

トラブル予防には「相続人全員での話し合い」が必須

揉めごとを防ぐには、相続人全員で話し合い、管理・収益の扱いを一時的にでも決めておくことが重要です。

 

銀行口座が凍結されてしまえば、賃借人も賃料を支払えず困ることになります。そのため、早めに相続人代表の口座を新たに設定し、賃借人に通知するのが一般的なのですが、その際は相続人全員の合意が必須です。1人の判断で口座を変更すると、あとから「勝手なことをした」と揉める原因になります。また、相続人同士が「出し抜かれるのではないか?」と疑心暗鬼になるといった問題も起こります。

 

代表相続人の口座に入った賃料は、あくまでも「預かっている」状態にあります。つまり、勝手に使ってよいものではなく、のちの遺産分割や合意内容に基づき、きちんと案分・分配することが必要なのです。

 

実務的には、相続人間で「遺産の管理・処分に関する委任契約」や「遺産管理の同意書」を作成しておくことが望ましいといえます。

共有財産として正しく管理を

事前に「賃料をどこに保管するのか」「だれが管理するのか」「どのように分配するのか」という3点を明確にしておくだけで、相続人同士の争いを防ぐことができます。

 

●遺産分割が終わるまでの賃貸収益は相続人共有の財産

●勝手な使用や単独管理はトラブルのもと

●管理・分配のルールを明確にし、全員の合意を取ることが重要

 

もし判断に迷う場合は、司法書士や弁護士などの専門家へ、早めに相談することをおすすめします。

 

 

加陽 麻里布
司法書士法人永田町事務所
代表司法書士

 

 

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