(※写真はイメージです/PIXTA)

平等な遺産分割をする目的で、複数の相続人が1つの不動産を共有するケースは少なくありません。しかし、円満で平等に思える方法は、将来的に大きなリスクをはらんでいるといえます。司法書士法人永田町事務所の加陽麻里布氏が解説します。

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相続で起こりがちな「共有名義の不動産」のトラブル

相続の際に親が所有していたマンションや駐車場などを、きょうだいが法定相続分どおりに共有持ち分として登記するケースはよくあります。

 

一見すると平等で円満な選択肢に見えますが、時間の経過に伴って相続人の生活が変化したり、さらなる相続の発生等によってそれぞれの事情が変わったりすることで、共有不動産の運営について意見が割れる可能性が高くなります。

 

こういった共有不動産のトラブルをさらに複雑にするものに、「共有持ち分の買い取り」というビジネスがあります。電車等で「共有持ち分買い取ります」という広告を目にすることがありますが、まさにそれが該当の業者です。

【事例】きょうだいの1人が「持ち分」を業者に売却

ある家族は、亡き父親から引き継いだアパートと駐車場を、3人の子どもがそれぞれ3分の1ずつ共有していました。

 

最初は問題なく共同管理していたものの、数年後、末っ子が「持ち分を売却する」といい出しました。しかも売却相手は、共有持ち分の買い取りをうたう不動産業者です。

 

残る2人は猛反対しましたが、結局その末っ子は業者に売却してしまい、見ず知らずの業者が3分の1の共有者となってしまいました。

業者が共有持ち分を買う理由

なぜ共有持ち分を買いたがる業者がいるのでしょうか? 目的はシンプルで「安く買って高く売る」ことにあります。

 

不動産は、共有持ち分だけでは活用しにくく、また、価値も低く見積もられがちです。そのため「持っていてもメリットがない」と考えた共有者は、安値で手放してしまうのです。

 

しかし、業者にとってはここからがビジネスのスタートです。取得後、業者はほかの共有者から持ち分を買い取ろうとして強く迫り、ときには共有物分割訴訟や競売請求を起こすこともあります。最終的な目的は、全体を業者の単独所有にして転売・利益を得ることです。

 

つまり、「共有持ち分の買い取り」とは、物件全体の転売を狙うための足がかりなのです。

共有不動産が抱えるリスクとその回避策

共有不動産において留意すべきなのは「共有不動産は、自分の持ち分を自由に売却できる」という点です。これは法律上の原則であり、ほかの共有者は止めることができません。その結果、知らない第三者が突然「共有者」として登場する可能性があるのです。

 

一度業者が入り込むと、売却や管理、リフォームなどの意思決定が難しくなり、最悪の場合は競売に発展することもあります。まさに「共有不動産トラブルの沼」にはまってしまうのです。

 

では、業者トラブルを防ぐにはどうすればいいのでしょうか? それには3つの方法があります。

 

①持ち分売却時に同意を要する契約を締結する

遺産分割協議の際に「売却時にはほかの共有者の同意を必要とする」旨を合意書や覚書レベルで定めておく方法があります。強制力は限定的ですが、抑止力の1つにはなります。

 

②家族信託を活用して管理権限を一本化する

共有不動産を「家族信託」にすることで、売却や管理の権限を一本化することができます。これにより、共有者の1人が勝手に売却するリスクを抑えることが可能となります。ただし、信託契約の設計は専門的な内容を含むため、専門家への相談が必要です。

 

③早期に共有状態を解消する

最も現実的で有効な方法が「早期に共有状態を解消する」ことです。共有状態を放置すること自体がリスクであるため、できる限り早く共有物分割協議を行い、単独名義にすることをお勧めします。

共有不動産の鉄則は「放置しない」

相続の現場では「とりあえず共有にしておく」という判断がよく見られます。しかし、それこそが「のちのトラブルの種」になると知っておきましょう。

 

持ち分買い取り業者が狙うのは「整理されていない状態」だからこそです。相続直後は家族仲がよくても、数年後には事情が変わることもあります。共有者がいつの間にか業者に売却してしまうケースも珍しくありません。

 

気づいたときには、すでに第三者が共有者になっていた…という事態を防ぐためには、早めの整理を心がけることが重要です。共有不動産の解消や、相続不動産の扱いに悩んでいる方は、早めに専門家へ相談し、後悔のない選択をするようにしてください。

 

 

加陽 麻里布
司法書士法人永田町事務所
代表司法書士

 

 

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