投資家の気質における「最強の組み合わせ」とは
ファンド・マネジャーとしてこの4半世紀のあいだ、市場をはるかに上回る投資実績をあげているカナダ人のフランソワ・ロションは、おもしろい意見をもっている。よく知られているように、人間の遺伝情報は長い時間をかけて生存という最大の目的に向けて進化してきた。少なくとも20万年前には、私たちは集団生活のほうが安全だという教訓を得た。
ロションによると、この無意識下の本能は危機に瀕すると、ほぼ否応なしに発動する。たとえば、株価が急落すると、平均的な投資家は周囲のパニックを見て、本能的にみなと同じように株を売って、安全な現金に換えようとする。集団に追随する者は直観に反する事実、つまりいまこそが安売りされている株を買う完璧なタイミングかもしれない、とは思わない。
「ところが、集団行動の遺伝子をもたない人たちもいるようなのだ」とロションは言う。「彼らには、みんなと同じように動かなくちゃ、という意識がない。自分の頭で考えられる人たちだからこそ、優れた投資家になれる」。
銘柄選びの才能を財源にして美術品収集に熱中しているロションは、芸術家や作家、起業家にも、集団行動の遺伝子をもち合わせていない人が多いと感じている。ロションの持論は立証できるものではないが、最強の投資家たちには人とはちがう脳の回路があって、それが金融で有利に働くのではと思わせる逸話的な証拠はいくらでもある。
この話題では匿名を希望したある著名な投資家は、大成功している仲間たちの多くには「アスペルガーっぽいところ」があり、ほとんど全員が「感情に流されない」と言った。周囲があきれるような、ありきたりではない賭けをするには、「感情に流されないのは強みだ」と指摘する。また、アスペルガー症候群*のような発達上の事情を抱える人たちは「別の強みをもつことがあり、それが数字の感覚であることも多い。感情に流されず計算が得意なのは、投資では最強の組み合わせ」なのだ。
非常に成功している別のファンド・マネジャーにもこの話をしてみた。ずばぬけた数学の能力があるが、社交はひどく苦手な人物だ。彼はこんな話をしてくれた。
「幼かったころ、両親は私が自閉症を患っているか、アスペルガーの気質があるのではと考えた。最終的にはちがうという結論に達したようだが。あるいは、少なくとも大きな支障があるほどではなかった。だから、ええ、もしかすると私は少しばかり自閉症かもしれないし、ちがうかもしれない」
そして、子ども時代に抱えたひどいトラウマの影響もあって、自分の感情と「距離を置く」ようになったと振りかえった。「なので、もしあなたが、私をサイコな臆病者だと感じるなら、あながちまちがいじゃないかも」。
*アスペルガー症候群:高機能自閉症のひとつで、ナチスに協力して子どもの安楽死を支持したとされる小児科医にちなんで名づけられた……など、診断で下されるさまざまなレッテルについて激しい議論があることは知っておくべきだろう。
ここで私は、偉大な投資家に対して素人の診断を披露したいのではなく、彼らの多くが気質的に有利なものを備えている可能性を指摘したいだけであることを注記しておく。
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