為替市場の「注目材料」は変化している
この“正体不明の円安”を何とかせよとのコメントがみられはじめた。国民の実質所得を奪っている物価高の元凶が円安だとすれば、日銀は金融引き締めに転じなければならない。
植田日銀はおそらく円安容認批判の先手を打ったのであろう。市場の意表をついて7月末に続いて10月末にもYCCの再調整(長期金利の上限の1%突破容認)というサプライズを演出したが、それはまったくの空砲に帰した。
為替市場が金利差縮小に反応しなくなっているのであるから、今の円安は日銀の矩を超えていると言わねばならない。
[図表4]は米国10年国債投資の為替ヘッジもののリターンであるが、日本の投資家が円ヘッジをした場合金利差を著しく上回るヘッジコストにより、1%以上のマイナスになる状況が1年以上にわたって続いていることがわかる。
[図表5]は円とユーロのドルヘッジコストの推移であるが、2022年後半以降日本円のヘッジコストが極端に上昇し、9月以降6%という高水準で推移している。
それまでほぼ連動していた両者か大きく乖離し、直近では4%の格差が生じている。ヘッジコストには市場が織り込んでいる相場観と見られるので、日本円には突如として「金利差以上の先安観」が形成されるに至ったのである。
市場参加者に見えていない「円安の正体」とは
金利差でもない、景況感でもない、貿易収支でもない、資本収支でもない理由によって、今や日本円の相場先安観が形成されている。この円先安観はどこから来ているのだろうか。それは米当局の意志に他ならない。
11月の米財務省による為替監視リスト(中国、ドイツ、マレーシア、シンガポール、台湾、ベトナム)から再度日本(対米貿易黒字第5位の)が外れた。中国・台湾・韓国という、地政学的危険地帯に集中しているハイテク製造業の産業集積を安全な日本に移転するしかない、という覇権国米国の国家戦略遂行の手段が、この超円安なのだと考えざるを得ない。
神田財務官、イエレン財務長官は「水準そのものが判断材料ではなく、あくまでボラティリティー(変動率)が問題」で同一歩調を取っている。
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