今回は、「持ち家志向」低下の理由に見る賃貸住宅需要の可能性を見ていきます。※本連載は、社団法人住宅・不動産総合研究所理事長の吉崎誠二氏の著書、『データで読み解く賃貸住宅経営の極意』(芙蓉書房出版)の中から一部を抜粋し、今後の「賃貸住宅需要」に関して解説します。

「持ち家比率」が低いのは、人口流入が多い大都市

持ち家比率を都道府県別で見てみる(図表1)。持ち家比率が高いほど色が濃くなっており、白が一番低い県群だ。

 

持ち家比率の高い都道府県は、富山・秋田・山形・福井・新潟と日本海側の都市がずらりと並んでいる。富山の持ち家比率の高さは有名で、永年首位の座を明け渡していない。ちなみに持ち家比率が高いからか、温水洗浄便座の設置率も永年日本一だ。

 

逆に持ち家比率が低いのは、東京・大阪・福岡といった人口流入が多い大都市。北海道は昔から低いが、札幌市への北海道各地からの人口流入が起こり、札幌が「東京化」するという状況になりつつあり、賃貸住宅居住者が増えている。そして同じように、那覇周辺に県内からの人口流入が続いている沖縄県が上位に入っている。

 

こうした持ち家比率が低いエリアは、これからも安定的に賃貸住宅需要が見込めるだろう。

 

【図表1 都道府県別 持ち家比率】

(総務省統計局「住宅・土地統計調査」)
(総務省統計局「住宅・土地統計調査」)

ライフスタイル、考え方の多様化が進む日本人

ここまでは、ここ25年の持ち家比率の変化の実態を見てきた。データを通して実態は見えたが、「住宅に関する考え方」はどうなのだろうか?

 

図表2、3は、「住宅の所有に関する意識の変化」の直近約20年間の推移を示したものである。

 

永年、80%超の方が「土地・建物の両方を所有したい」と答えていたが、近年は減りつつあり、80%を切るようになってきた。一方で、近年増えているのは、「賃貸住宅で構わない」という方々だ。

 

最新データ(平成25年分)の数字を世代別でみると、図表3のグラフのようになる。

 

【図表2 住宅の所有に関する意識の変化】

(国土交通省「土地問題に関する国民の意識調査」より作成)
(国土交通省「土地問題に関する国民の意識調査」より作成)


【図表3 世代別住宅の所有に関する意識(平成25年)】

(国土交通省「土地問題に関する国民の意識調査」より作成)
(国土交通省「土地問題に関する国民の意識調査」より作成)

 

この理由は何だろうか。

 

第一に、「景気が安定せず、給与の増が見込めず、非正規雇用が増えている」という状況がバブル崩壊以降、長く続いた。その頃社会に出た、30代・40代の方々は、近年景気回復傾向にあるとはいえ、大きな住宅ローンを抱えることに、不安があるということだろう。

 

安定した雇用と給与の面において、大きな不安を抱えたままでは、数十年単位の住宅ローンが重い負担に感じるのも無理はないだろう。

 

次に、コミュニティ形成の難しさが考えられる。

 

ライフスタイルや考え方など、多様化が進む日本社会では、近隣世帯との結びつきが希薄になっている。さらに、近くに住む人との関係が上手くいかなければ、人間関係においてつらい思いで毎日を送らなければならない。引越ししようにも、多額の住宅ローンをかかえているので、簡単にそうはいかない。そんな煩わしさがあるならば、気軽に引越しができる「賃貸住宅がいい」と考える人も多くいることだろう。

 

このような意識の変化が、持ち家志向を引くし、そして「賃貸派」と呼ばれる、ずっと賃貸住宅に住もうと考えている方を増やす要因となっている。

 

賃貸需要の拡大は、こうした20代~40代に目立つ、「持ち家志向の低下」も影響しているのだ。

本連載は、2016年2月15日刊行の書籍『データで読み解く賃貸住宅経営の極意』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

データで読み解く 賃貸住宅経営の極意

データで読み解く 賃貸住宅経営の極意

吉崎 誠二

芙蓉書房出版

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