人口とねずみ講
みなさんは、ねずみ講を知っているだろう。
ねずみ講は、ピラミッド型の組織をしている。まず、ピラミッドの頂点にいる「親」が二人の「子」会員を勧誘して一定額の金銭を得る。次に、「子」会員がそれぞれ二人の「孫」会員を勧誘するなど、さらにあとから加入した会員が先に加入した会員に金銭を支払う組織である。要するに、次から次へと下の世代を集められるならば、つまり、世代の人口が成長しつつ、その連鎖が続く限り、全員が儲けられる仕組みなのである。
しかし、もし、自分が最後の会員だということになれば、誰からもお金を受け取れないので、当然、その者はねずみ講には加入しない。つまり、ねずみ講が永続するには、会員が無限に増え続けなければならないし、無限に増え続けるという予想が大事だ。しかし、人口は有限だ。だから、ねずみ講はいつか必ず破綻する。世代の連鎖が無限に続かない限り絶対にねずみ講は成立しない。
日本では、1978年に制定された無限連鎖講の防止に関する法律で、政府がねずみ講を禁止している。法律で明確に禁止されているにもかかわらず、ねずみ講に類した仕掛けは後を絶たず、マルチ商法やネットワークビジネスの中にもねずみ講と認定される事例が相次いでいる。
日本の例ではないが、1997年1月にアルバニアでは、ねずみ講の破綻を発端として無政府状態に陥り、イタリア軍を主力とする多国籍軍が治安回復に努力し、多国籍軍の監視下で、6月に総選挙が実施され、ねずみ講を黙認したペリシャ政権は敗北。ねずみ講による損失の補償を訴えた社会党が政権に復活する事態も生じた。なんとねずみ講が一国の政権を吹き飛ばしたのだ。
まるでねずみ講のような公的年金制度
先に見た社会保障の自己崩壊や医療保険による延命効果の影響をもろに受けたのが、長生きリスクに備える公的年金制度である(記事『団塊世代は社会保障を明らかに「受け取りすぎ」…現役世代・将来世代はまるで「高齢者の奴隷」ではないか【経済学者が解説】』参照)。公的年金制度ができるまでは、私たちは長生きリスクに備える対処策として子どもを利用してきた。
しかし、先に見たように、社会保障制度が充実してきた結果、少子化が進んだ(記事『これまでの少子化対策、控えめに言って〈失敗〉だが…「異次元の少子化対策」が、少子化をさらに加速させるといえるワケ 』参照)。その結果、皮肉なことに賦課方式で運営されている日本の公的年金制度は危機に瀕している。なぜなら、ねずみ講はピラミッド型をしているからこそうまくいくのに、少子高齢化が進んでピラミッドがひっくり返ってしまったからである。
どういうことかというと、現行の年金財政が採用している賦課方式は、現時点の現役世代が拠出した保険料が、高齢世代への給付の財源として、そのまま横流しされる仕組みである。したがって、増え続ける高齢世代の給付を工面し続けるには、どんどん新しく現役世代を増やして負担させなければならない。本質的にねずみ講と同じなのだ。
したがって、ねずみ講を底辺で支える若者人口が増え続けているときは問題ないのだが、若者人口が減り始めているにもかかわらず、上部にいる高齢世代が今まで通りの上納金を望めば、より後から組織に加入させられる若い世代ほど負担が重くなり不利になってしまう。自分が確実に損をする仕組みに喜んで入りたいと思うものはいないだろう。
つまり、年金制度の持続可能性が担保されるためには、今現在制度が存在していることだけでなく、今後も制度が維持されると制度参加者だけではなく参加予備軍も確信できなければならない。
そうでなければ参加する者はいなくなり、制度が崩壊してしまう。だからこそ、政府は、現状では若い者ほど確実に損をするこの仕組み=公的年金制度を、若い者も安心して加入できるよう改革しなければならないのだ。
もちろん、政府も社会保障、特に公的年金制度がねずみ講であることはよく心得ていて、この少子高齢化時代にあってもねずみ講を維持するために腐心し、これまで度重なる少子化対策を行い、年金制度加入対象者の拡大を図ってきた。
しかし、これまで数多の少子化対策が実施されながら出生率は減少を続けている。公的年金制度というねずみ講に新しく日本人が加入しないのであれば、現行の社会保障制度を維持するには、移民の受け入れが有力な選択肢となる。
しかし、移民を含め持続的に現役世代が右肩上がりで増えない限り、ねずみ講を支えるためには移民に永久かつ拡大再生産的に日本を選択してもらわなければならず、やはり持続可能性には疑問が残る。
現行の社会保障制度の根幹が確立した高度成長期には、成長の恩恵から取り残され、放置すれば貧しくなる一方の高齢世代を、どんどん豊かになる現役世代が支えるのは、正義に適っていた。しかし、人口が減少し、経済が停滞する右肩下がりの社会では状況は異なる。増え続ける高齢者の社会保障給付を少ない現役世代で支えなければならず、社会保障制度への不満がマグマのように蓄積されていく。
したがって、「右肩上がりの人口・経済」、「豊かな現役世代と貧しい高齢世代」を当然視する「昭和的価値観」に固執する社会保障制度の危機的な状況を打開するには、「右肩下がりの人口・経済」、「貧しい現役世代と豊かな高齢世代」の時代にふさわしいグランドデザインを描いた上で、「昭和的価値観」に基づいた社会保障制度を人口に左右されない社会保障制度へ抜本的に改めるにほかはない。
空洞化する国民年金
社会保障制度の中でも特に綻びが目立ち、矛盾が凝縮されているのが国民年金制度である。
国民年金加入者のうち、厚生年金(や旧共済年金)に属していない者を第一号被保険者と呼ぶ。
主に、自営業者、農林漁業従事者等であるが、近年は非正規労働者も多く含まれる。本来、自営業者を対象とした国民年金と被用者を対象とした厚生年金の区分があいまいになっている。
2020年3月末時点では、第一号被保険者※1 1238.4万人のうち、保険料の納付者605万人、全額免除者206.2万人、学生納付特例者177.9万人、納付猶予者56.1万人、一号期間滞納者(24カ月以上の保険料を滞納している者)は193.1万人となっている。さらに、制度未加入者が8.8万人いる※2。
※1 ここでは、国民年金第1号被保険者のうち、任意加入被保険者、外国人、法定免除者及び転出による住所不明者を除いた者について述べる。厚生労働省年金局「令和2年国民年金被保険者実態調査」(2022年6月)
※2 厚生労働省年金局「令和元年公的年金加入状況等調査」(令和3年8月)
つまり、第一号被保険者として保険料を納付すべき者のうち、保険料を実際に納付しているのは全体の48.9%に過ぎず、残りの51.1%が何らかの形での未納者なのだ。しかも、滞納者のうちの76%は、国民年金保険料を納付しない理由について、「保険料が高く、経済的に支払うのが困難」という。国民年金の空洞化は深刻だ。
島澤 諭
関東学院大学経済学部 教授
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