75歳以上の高齢者に「一人当たり毎月15万円給付」という方法も…基本年金創設で実現する、少子高齢化時代の社会保障制度

75歳以上の高齢者に「一人当たり毎月15万円給付」という方法も…基本年金創設で実現する、少子高齢化時代の社会保障制度
(画像はイメージです/PIXTA)

少子高齢化時代にふさわしい社会保障制度とはなにか。改めて原点に立ち返り、もう一度整理すべき必要がある。そこで筆者が提案するのが、「基本年金」の創設だ。どのようなものか、具体的に見ていく。※本連載は島澤諭氏の著書『教養としての財政問題』(ウェッジ)より一部を抜粋・再編集したものです。

現役世代は保険原理、高齢世代は税原理

先に見たとおり、日本の社会保障制度は、保険原理と税原理から成っている。前者が公的医療や公的年金、公的介護などの社会保険であり、後者は生活保護である(記事生活保護世帯の半数超が「高齢者」、費用を負担するのは主に「若者」…日本はすでに「国民皆年金」ではない【経済学者が解説】参照)

 

社会保険はメンバーシップ制でありメンバー以外は一切恩恵を得られないので、最後の安全網である生活保護は税を財源とすることで必要な者は誰でも恩恵を受けられるように制度設計がなされている。

 

しかし、日本の場合、社会保険とは言っても名ばかりに近く多額の税金が投じられている。さらに、保険原理と税原理の境界がただでさえ曖昧となっているところ、全世代型社会保障の名の下、消費税を財源として社会保障の適用範囲が拡大されようとしている。この結果、社会保障制度の理念が一層混乱している。

 

そこで、少子高齢化時代にふさわしい社会保障制度の在り方を考える上で、社会保障制度の原点に立ち返って考えるのが生産的である。つまり、誰を何を保険原理の対象とし、税原理の対象とするか、もう一度整理すべきだろう。

基本年金創設で必要になる財源は45兆円

2022年10月1日現在、75歳以上の高齢者は1940万人であり、75歳以上人口がピークとなるのは2054年の2449万人と推計されている。この人数をもとに、75歳以上の高齢者に一人当たり毎月15万円給付するとして基本年金給付総額のピーク時の金額を計算すると、75歳以上高齢者2500万人×毎月の年金額15万円×12カ月=45兆円となる。

 

問題は、この財源をいかにして捻出するかであるが、この点については後で詳しく見てみよう。

 

「基本年金」の税財源については、消費税と地価税を充てることを提案したい。

 

ただし、その前に、年金受給者が遺産を残して亡くなった場合、社会的に妥当と認められる遺留分を除いて、年金支給額相当をまず国庫に返納させることにする。

 

公的年金はそもそも長生きリスクに備えて老後の生活保障に充てられるべきものであり、支給された年金額以上に、亡くなった際に遺産が残っているということは、長生きリスク(想定以上に長生きすることで貯蓄が底を尽きてしまう)がなかったのと同じことなので、本来なら支給される必要がなかったことを意味するからだ。

 

このため、遺産を漏れなく把握し、確実に徴税するため、マイナンバーと銀行口座、資産管理口座、一切の資産取引を紐付けることで、資産やその取引の現状を完全に把握できる仕組みの構築も急務である。

 

地価税は元々、バブル期に土地の投機によって生じた地価高騰を抑制する目的で1992年1月に、土地という有限で公共的性格を有する資産に対する税負担の適正・公平の確保を図りつつ、土地の資産としての有利性を縮減する観点から、土地の資産価値に応じた負担を求めるものとして、導入された。しかし、バブル崩壊により、一転して地価は大幅に下落し、土地需要が低迷したので、1998年度以降当分の間、地価税は適用が停止されている。

 

2021年末現在、日本の土地資産額は内閣府経済社会総合研究所「国民経済計算」によれば、1277兆円となっているので、原則、例外なく地価税を課すこととすれば、1%の税率でも12.7兆円の税収が確保できる※1。なお、2020年度の固定資産税収は9兆2936億円あるので、地価税と固定資産税を一本化し税率を2%とすれば、25兆円の税収が生まれる※2

 

※1 地価税のメリットは、開発されることなく放置されている土地にも課税され、しかも、土地にのみ課税されることから、土地の有効利用が促される点にある。

 

※2 固定資産税は土地のほか、家屋や償却資産にも課税されるが、地価税に一本化するに当たっては土地への課税のみとする。

基本年金導入で現役世代にも企業にも余裕が生まれる

基本年金の実現に必要な金額45兆円のうち、固定資産税相当分を控除した残りの15兆円を地価税で賄うとすれば残りは30兆円となる。

 

この30兆円は、消費税で負担するならば、消費税率1%当たりの税収は2.2兆円ほどなので、だいたい15%消費税率を引き上げればよいことが分かる。

 

つまり、消費税率を合計25%にするだけで、基本年金を実現できるのだ。しかも、国民年金や基礎年金の現役世代及び企業負担分の25兆円がなくなるので、実質的な負担増となるのは5兆円に過ぎない。

 

しかもこの5兆円も現役世代だけでなく高齢世代も負担することになる。具体的には、年金保険料及び企業負担分12.5兆円を64歳までの世代が負担しているとすれば、残りの12.5兆円は消費税で負担されていることとなる。世代別の消費税負担割合を見ると65歳以上では40.1%なので、5兆円が高齢世代の負担となる。つまり、現状では国民年金及び基礎年金の負担25兆円のうち現役世代が20兆円、高齢世代が5兆円負担している。

 

一方、基本年金の創設により必要となる財源45兆円のうち消費税分の30兆円に関しては現役世代18兆円、高齢世代12兆円となる。これにより、わずかながらも現役世代の家計に余裕が生まれるし、事業主負担が軽減される。

 

 

島澤 諭
関東学院大学経済学部 教授

 

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※本連載は島澤諭氏の著書『教養としての財政問題』(ウェッジ)より一部を抜粋・再編集したものです。

教養としての財政問題

教養としての財政問題

島澤 諭

ウェッジ

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