映画監督が考案…マルサの「張り込み専用車」
マルサが長期間の張り込みをするために開発した特殊車両を「トクシャ」と呼ぶ。
トクシャの初代がマルサに配備されたのは1989年だが、モデルになったのは映画「マルサの女2」(1988年公開)の冒頭に登場する『HONDA Z』。女性査察官が張り込みをするシーンに使っていた車だ。
映画『マルサの女』がきっかけで予算がついた「秘密車両」
映画に登場するトクシャには、さまざまな通信機器が積まれていた。
当時マルサには特別な車両などなく、刑事ドラマのように普通の乗用車で張り込んでいた。ところが映画を見た国税庁の幹部が「マルサの秘密車両を見たい」と言い出したことで急遽予算がつき、作製の指示が下った。
当時の査察管理課長は「上(国税庁のこと)がおもちゃを作れだとよ」と言っていたが、上からの突然の指示に、担当した先輩は映画を参考にするしかなかった。
そのため、内偵調査にも強制調査にも使用可能なデモンストレーション車ができあがったものの、正直なところあまり実戦向きとは言えなかった。
内偵に使うカメラを搭載しながら、強制調査に入ったときに使う安全靴やドアチエーンを切断するカッターなどの工作道具も搭載されていた。しかし、これらは映画の一コマには大きなインパクトを与えたが、実際の現場で使うことはない。
ドアが開かなければ管理人に開けさせる権限があり、管理人がいなければマルサと契約する「鍵屋」[かぎや(開錠のスペシャリスト)]を呼び出し、警察官を立会人にして踏み込むだけだ。
トクシャはガサ(強制調査の隠語)日にはガサ箱(押収箱)の運搬車両としても使われたため、広い荷台を必要とした。しかし、張り込み用の大きなカメラがスペース確保の邪魔になった。
また、張り込むときには荷台に段ボールを敷いて長時間潜まなければならず、フラットな堅い荷台が内偵班に不評だった。
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