「脱税の証拠」をつかむため…マルサが“低金利時代になって「長期張り込み」せざるをえなくなったワケ【元マルサの税理士が解説】

「脱税の証拠」をつかむため…マルサが“低金利時代になって「長期張り込み」せざるをえなくなったワケ【元マルサの税理士が解説】
※画像はイメージです/PIXTA

映画『マルサの女』などで有名になった、国税局査察部(通称マルサ)。脱税の疑いがある対象者を徹底的に調べ尽くすマルサでは、信じられないほど長期間の張り込みをするそうです。そしてこの張り込みは、低金利時代になって以降さらに大変になったと、元マルサの税理士である上田二郎氏はいいます。いったいなぜなのか、詳しくみていきましょう。

内偵調査は張り込みと尾行

マルサを扱ったドラマや映画で外せないシーンが「強制調査の現場」だ。筆者はマルサに17年間在籍したものの、ナサケ(内偵班)一本やりだったため、内偵調査についてしか語ることができない。

 

しかし、ときおり強制調査で出動した現場は、ものすごいシーンの連続だった。張りつめた緊張感のなかで突入する瞬間。脱兎のごとく逃げ出す社長を追う査察官。怒号が飛び交うなかでの捜索中に、覚醒剤や拳銃が見つかることもある。

 

多くの現場から見つかるタマリ(脱税の果実)は、大量の現金だったり、宝石や金塊だったりするが、隠し場所は多岐にわたる。経験者でなければ描けない緊迫した現場を、いつか誰かが書いてくれることを待っているが、筆者のような口が軽い査察官は他にはいないのかもしれない。

 

マルサの情報収集の基本は張り込みと尾行だ。社長の動向を調べるために徹夜で何日も張り込む。銀行前で無記名債券の購入者が来るまで何ヵ月も張り込む。これは映画のシーンではなくマルサの日常だ。

 

6ヵ月にわたる張り込みも…

マルサは信じられないほど長期間の張り込みをする。筆者も6ヵ月間にわたって現物債の購入者を張り込んだ経験がある。現物債とは無記名で買える1年満期の金融債だ。無記名だから名前を出さずに現金で購入できた(現在は発売されていない)。

 

しかも、1,000万円券は1,000万円の札束を定期預金証書ほどの大きさに変えることができるため、脱税ツールとして重宝された。現物債は販売した銀行さえも購入者を知らないのだが、マルサは張り込みと尾行で購入者を突き止める。

 

高金利時代は良かったほうだ。現物債の購入者は1年後の償還日を過ぎると、すぐに「乗り換え」、「償還」などの手続をするために再び銀行に現れた。「乗り換え」は古い債券を持参し、同額の新しい債券に換えて利息を現金でもらう。償還は額面額を現金で受け取ることだ。

 

この手続の瞬間を待って尾行するのだが、低金利時代になると購入者は1年後に銀行に現れなくなった。利息に魅力がないため急いで「乗り換え」する必要がないのだ。現物債の保有目的が利息から保管に変わり、人によっては1年以上も放置する。

 

これがマルサを苦しめる「長期張り込み」の原因だ。債券発行銀行前にマルサの「張り込み専用車」を停め、ターゲットが来るまでローテーションをしながらひたすら待つ。毎日、銀行のシャッターが開く朝9時から午後3時まで。見逃せば次はいつ来るか分からない。

 

しかもターゲットの写真はない。現物債の購入時に担当した銀行員がつけた「あだ名」だけが頼りだ。『クマゴロー。ひげむくじゃらの小太りの男。身長165センチ位。40歳位。メガネはしていない』

 

これを『あだ名管理』と呼び、脱税の温床になっている現物債を解明するために、マルサが銀行に要請して購入者にあだ名をつけさせた制度だ。『クマゴロー』は6ヵ月後に軽自動車で現れ、尾行によって都内の建築業者があぶり出された。

 

債券発行銀行は地方都市にもあるが、人込みに紛れようと脱税者が東京に集まる。購入時に名古屋弁で話していたことから『名古屋の人』、つるつる頭のおじさんを『タコ入道』と呼んだあだ名もあった。『名古屋の人』は新幹線で名古屋へ、「タコ入道」は飛行機で高松へ帰っていった。1年に1回のチャンスをものにして購入者を突き止める。

 

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