税務調査を阻む「管轄区域」の壁
上田「ダメだな。廃業している。うちの管轄には店も無ければ住居もない」
室井調査官「おもしろそうな事案ですけど残念ですね」
上田「もう少し調査をしないと赤紙(重要資料)にもできない。かなりの調査日数を使ってしまったので、これからどうやって調査を進めるかね」
著書『国税調査 トクチョウ班※(法令出版)』に掲載した「ダミー申告と黒い爪のおじいさん」に登場する張り込みシーンだ。
※トクチョウ(特別調査)班:税務署の調査部門のひとつ、あるいは調査部門のなかに班として存在するシークレット部隊のこと。税務署の案内板にも職員名簿にも「特別調査部門」の記載はない。風俗店や飲食店の他、弁護士、司法書士、医師など、大口の申告漏れが見つかりそうな案件を対象に調査を行っている。
無店舗型風俗店の拠点(待機場所)と思われるアパートは静まり返っていた。翌日も同じ時間に張り込みをしたが、結果は変わらずに風俗店は廃業していると判断せざるを得ない。結果、所轄署には調査する根拠となる場所がなく、調査権限自体が無くなった。
マルサなら日本全国どこでも踏み込めるのだが断腸の思いだ。調査官たるもの見つけた端緒は自分で刈り取りたいと願う。しかし、管轄の壁が大きく立ちはだかっていた。
税務署でトクチョウ班の統括官をしていた時の調査だ。確定申告会場にふらっと現れたおじいさん。日焼けしていて伸びた爪の間が真っ黒。風俗店のオーナーだというが、建設作業員のようにしか見えない。昨年は忘れてしまって、今年と昨年の2年分の確定申告書をまとめて出しに来たという。
収支計算書が出来上がっているが、計上額が千円単位で適当に見える。おじいさんに簡単な質問をしたところ、まったく内容を理解していないためダミー申告を直感した。
長い確定申告期間が終わり、確定申告書の山からメモに残したおじいさんの申告書を見つけ出すと、案の定ダミー申告の匂いがしていた。前述の張り込みシーンは、風俗店の届け出(風営法)人になっていたおじいさんの居宅だ。
ダミー申告は他人に代わって確定申告書を提出する。2年で廃業すると次は別の人物が申告書を提出し、さらに2年経つと別の人にスイッチする申告を繰り返す。開業後2年間は消費税が課税されなかった時代に使われた脱税手法だが、よほどでなければ廃業した店の調査はしない。
調査を受けない前提で提出した確定申告書が正しいはずがない。開業後3年間は税務調査がないことを知る者が使うスキームだ。
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