(※写真はイメージです/PIXTA)

被相続人(亡くなった人)から不動産を相続した場合、不動産の名義を被相続人から相続人へと変更しなくてはいけません。この手続きを「相続登記」と言います。もし実家が両親共有名義になっていて(=実家の所有権を両親が半々で持っていて)、夫婦のどちらか一方が亡くなった場合、実家は誰名義に変更するとよいのでしょうか? 佐伯知哉氏(司法書士法人さえき事務所所長)が、相続登記の具体事例を解説します。

「両親共有名義の不動産」、相続登記はどうするべき?

 

以前、筆者のYouTube動画に「両親が不動産の所有権を半分ずつ持っている場合のケーススタディを知りたい」とのコメントが寄せられました。さっそく事例を挙げてみていきましょう。

 

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【事例】

●実家の不動産が両親の共有名義(父母の持分はそれぞれ50%)

●父が死亡

●父の相続人は母・長男・長女の合計3名

⇒実家には母が住んでいるので、父の持分50%は母名義として相続登記をしたほうがよいのだろうか?

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上記のケースでは、父持分をどのように相続登記できるのか。まず、考えられる選択肢は次の3つです。

 

●父持分を母名義にする(母が父の持分を取得する)

●父持分を子ども(長男・長女)の共有名義にする

●父持分を長男名義or長女名義にする

 

父の持分である50%を母名義にする場合、子ども(長男・長女)の納得感は得やすいでしょう。

 

父の持分50%を長男・長女の2名で(あるいは母も交えて3名で)共有するという選択も可能ですが、基本的に共有名義は避けたほうがよいでしょう。共有物は、管理や処分をするときは関係当事者が多ければ多いほど手続きが複雑になってしまうからです。

 

共有者をなるべく減らしたほうがいいという考えから、次に挙げられるのが、父持分を長男名義もしくは長女名義にするという選択です。ただし、この場合は長男もしくは長女が父の持分50%を取得する場合は、どちらかが不動産をゲットすることになる、つまり一方に多くの財産が集中することになりますので、取得するためには何かしらの特別な事情が必要になるかもしれません。例えば「長男が母親と同居しているから、長男が取得する」「将来的には長女が母親の介護をすることになっているから、長女が取得する」といった具合です。

 

もしくは、不動産以外にも預金といった遺産がある場合なら「不動産は長男が取得するが、預金については長女が取得する」「長男が不動産を取得するが、長男は長女に対していくらかの代償金を支払う」などの方法で平等性を確保する必要があるかもしれません。

 

長男や長女が「自分は財産を取得する気がないので、ご自由にどうぞ」と言うパターンもあるかもしれませんが、あくまで平等性の確保という観点でみると、一方が取得するに値する事情があるかどうかを話し合ったり、あるいは遺産の分け方を工夫したりする必要が出てくるでしょう。

遺産の分け方はどうする?

ここからは筆者の見解を説明していきますが、あらかじめ次の2点をご理解ください。

 

一つは、現在のことだけでなく「二次相続」(=今回のケースでは、将来母が亡くなった際の相続)のことも考えて検討しなければいけないということです。もう一つは、正解は1つではないということです。やはりそれぞれの家庭には背景があるので、事情を詳しくお聞きしなければ最適解を出すことはできません。

 

ですので今回の事例では、このような問題や背景があるのではないか?という点を筆者の中で想像しながら一例を挙げていく形になります。あくまでご参考としてお読みいただければと思います。

 

今回の事例では実家は夫婦の共有不動産ですから、そもそも母にはすでに50%の持分があります。そのため大前提として、父の持分50%を母に移そうが長男もしくは長女に移そうが、母の認知症リスクや二次相続時に発生するコストをゼロにすることはできません。母が亡くなった際には、母の持分の名義変更が必要になりますし、もし途中で不動産を売却しようと思っても、母が認知症などで判断能力が低下したとみなされた場合には、母の持分50%については成年後見人をつけないことには売却できないといった問題が生じます。

 

この大前提を踏まえて、どのような遺産分割の方法があるのか見ていきましょう。

 

①将来「空き家の3,000万円特別控除」が適用できそうなら、父持分は母へ

まずは、子どもが被相続人と同居しているかどうかという点にも関わりますが(後述)、子どもたちが相続するときにその不動産を売却するということであれば、将来「空き家の3,000万円特別控除」を適用できる可能性があります(厳密には「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」)。このような場合には、亡き父の持分50%を母に移してもよいでしょう。

 

「空き家の3,000万円特別控除」とは、“被相続人と同居していない相続人”がその不動産を相続し、売却するときに、売却代金の中から最大3,000万円まで控除できるという制度です。不動産は売却した際にも税金(譲渡所得所得税)がかかります。例えば不動産が3,000万円で売れたとき、この3,000万円控除を適用できれば売却代金はゼロ円だったことになるので、税金はかかりません。

 

非常に有利な制度なのですが、「相続したのが“被相続人と同居している人”だとこの制度は適用できない」という点にご注意ください。

 

父の持分50%を母に移せば、母が100%持っていることになります。そもそも子どもたちが同居しないという前提で、将来母が亡くなって子どもたちが相続する際に実家を売却するということであれば、父の相続の段階で実家をあらかじめ母名義にしておくと、この3,000万円特別控除を使える可能性が出てきます。

 

制度自体が変わることもあるため、3,000万円特別控除がこの先も絶対に使えるとまでは言い切れません。よって上記記述だけを見て「じゃあ母名義にしようか」と決めるのは得策ではないかもしれませんが、一応このような考え方もあるということで押さえておくとよいでしょう。

 

②長男長女の平等性を考慮するなら、いったん母100%名義へ⇒二次相続時に売却換価

次に、将来母が亡くなったときの相続(二次相続)の際に不動産を売却換価して、長男長女でそれぞれお金を受け取るという選択肢も考えられます。

 

ここで空き家の3,000万円特別控除を併用してもよいでしょう。母と同居していなければ3,000万円特別控除を適用することもできます。平等性の観点からしても、今回の父の相続では、持分を母に寄せてしまう方法もアリだと思います。

 

前項の①②はどちらも「今回は母の名義にする」という選択です。なぜかというと、先ほども述べたように夫婦の共有不動産である以上、母にはすでに50%の持分があり、認知症リスクを排除することはできないからです。父の持分を母に寄せてもあまり変わらないのではないかと考えました。

 

もちろん、父の持分を母に移すか否かにかかわらず、母の認知症による資産凍結リスクを回避する対策(任意後見や家族信託など)を取っておいたほうがベターです。そうしないと、例えば「不動産を売却して母の施設入居費用に充てよう」などと考えたときには、すでに家庭裁判所に後見人をつけてもらう制度(=成年後見制度)しか利用できなくなっていたという事態に陥りかねません。

認知症対策として家族信託を使う場合

資産凍結リスクを考慮した際の認知症対策として家族信託を利用する場合、今回の事例では、まず父の持分を母へ移します。100%母の名義にした状態で、家族信託における“役割”を設定していきます。

 

<役割設定の例>

●委託者(財産を託す人)→母

●受託者(財産を託された人)→長男

●受益者(信託財産から発生した利益を受ける権利を持つ人)→母

 

もし母が認知症になってしまった場合でも、受託者である長男には実家の管理処分権があるため、実家を賃貸として他人に貸したり売却したりできます。家族信託ではこのようにして資産凍結リスクを回避できます。

 

また、母が存命中に不動産を売らなかったとしても、信託契約の中で「母が亡くなったときにこの契約を終了する」とあらかじめ定めつつ、さらには母死亡後に不動産を売却換価し、その金銭を長男長女で平等に相続するよう決めておくこともできます。

 

このように、家族信託は1つの契約の中で認知症対策だけでなく相続対策まで決められる便利な制度です。親にとっては、相続登記に加えて家族信託を利用することで、子どもたちの相続まで安心して生活できるのではないでしょうか。

家庭によって「相続登記の最適解」は異なる

以上、今回は共有名義不動産の相続登記について紹介しました。方法としていくつかご紹介しましたが、繰り返し述べてきたように、家庭それぞれの背景や、同居の有無、介護の状況、きょうだい仲の良し悪しなど、前提条件にさまざまな違いがあり、それによって提案の方向性も変わってきます。

 

1つの相続登記をとってもさまざまな選択肢があり、また、家族信託のように「相続登記以外にも検討したほうがいいこと」をアドバイスできる場合がありますので、一度お近くの司法書士事務所に相談してみるとよいでしょう。

 

 

佐伯 知哉

司法書士法人さえき事務所 所長

 

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