物価が上がらないと、賃金も上がらない
なぜ物価は上がらないといけないのか。ひと言で言えば、物価が上がらないと賃金も上がらないからです。名目賃金と消費者物価(消費税調整済み)のグラフ(図表)を見ると、この2者が連動していることがよくわかります。
物価が上がって賃金が上がるのか、賃金が上がって物価が上がるのか、鶏と卵の関係ではありますが、企業が儲からない限り賃金は上がらないので当然です(ただし、日本の場合には物価が上がっても賃金が上がりにくいという問題がありましたが、それは労働分配率というまた別の原因です)。
また賃金面から見ても、賃金が上がらないのにモノやサービスの値段が上がれば、値上がりしたモノやサービス以外に使うお金が減ってしまいます。
すると、例えばガソリンが値上がりしてガソリンの売り上げは増えたとしても、それ以外のモノやサービスの売り上げは減り、逆に値段が下がってしまいます。モノによって個別の上下はあるにせよ、このように物価指数全体で見ると、賃金(家計の購買力)と消費者物価には明確な連動性があるのです。
1997年、「賃金は上がり続ける」常識が崩壊
そして、バブル崩壊(1991年~1993年)後の名目賃金の推移を見ると、1997年にターニングポイントがあるように見えます。
1997年とは、さまざまな経済的負担と不安が重なった年でした。4月に消費税増税(3%↓5%)。7月にはアジア通貨危機。11月には三洋証券が会社更生法の適用を申請。さらに北海道拓殖銀行が経営破綻した直後、負債総額3兆円で山一證券も経営破綻というニュースが流れました。
バブル崩壊後、大手金融機関が破綻したのは初めてでした。翌年には、日本長期信用銀行と日本債券信用銀行が相次いで経営破綻と連鎖は続きました。
その背景にあったのが、バブル崩壊以降の不良債権です。金融庁によれば、1996年時点で全国の銀行の不良債権は28兆5,000億円。しかし実際にはもっと多かったという見方もあります。
これを目の当たりにした多くの民間企業は、経営安定化のために、最後の砦であった人件費にも手を付け始めるようになったのです。
世界的に見ても、またバブル崩壊以前の日本でも、「賃金は上がり続ける」のが常識でした。バブルが崩壊しても、その常識はまだ生きていて、なんとか賃金を上げようとした努力が見られます。それが崩れ去ったのが1997年という年でした。実際に、その後2022年の今日まで、バブル直後の水準までは賃金を回復できていません。
なお、[図表]の名目賃金は、人件費の総額を事業所で働く人数で割った平均値です。ゆえに、個人ベースで考えれば、企業に勤めていると、わずかながらも昇給していく慣例は今でも残っていますが、平均ベースで見れば上がり幅は少なくなっているわけです。
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