(※画像はイメージです/PIXTA)

大手4銀行(みずほ、三菱UFJ、三井住友、りそな)は、11月1日から住宅ローンの「10年固定金利」を引き上げました。しかし、国土交通省の統計によると、住宅ローンを借りている人のうち「変動金利」を選択している人が全体の76.2%を占めています。固定金利の引き上げの影響が今後、変動金利にも及ぶのでしょうか。また、これからローンを組むなら低水準で推移している変動金利のほうがよいのでしょうか。解説します。

固定金利が上がっても変動金利は「すぐには」上がらないが…

今回、大手4銀行が引き上げを行ったのは、住宅ローンの「10年固定型」の金利です。10月と比べ、みずほ銀行は0.1%引き上げて1.55%、三菱UFJ銀行は0.1%引き上げて1.04%、三井住友銀行は0.15%引き上げて1.29%に、りそな銀行は0.15%引き上げて1.80%となっています。

 

これに対し、「変動金利」については引き上げの動きはありません。むしろ昨今は、ネット銀行を中心として、変動金利を引き下げる動きもみられます。

 

なぜこのような差が出るのかというと、固定金利と変動金利の違いは、「政策金利(短期金利)」と「長期金利」の違いによるものだからです。変動金利は「政策金利」、固定金利は「長期金利」の影響を受けています。

 

そして、一口に「金利」といっても、「政策金利」と「長期金利」は明確に区別する必要があります。以下、説明します。

 

◆政策金利(短期金利)とは

まず、住宅ローンの変動金利に影響を与える「政策金利(短期金利)」について説明します。

 

政策金利は、中央銀行(日本では日銀)が一般の銀行に貸し出しを行う際の金利です。景気や物価を安定させるために、上げたり下げたりします。

 

伝統的な経済学の理論によると、景気が悪く物価が下がっている状況では、政策金利を低く抑えます。そうすると、銀行が人や企業に貸し出す金利が抑えられ、借りやすくなります。また、銀行に預金しておいても利息がつかないということで、株式等への投資が促進されます。これによって、景気を良くし、物価を上昇させる効果があるといわれます。

 

逆に、景気が良く物価が上昇している状況では、景気の過熱を抑えて「バブル」にならないようにするため、政策金利を引き上げます。

 

現在は、政策金利が「-0.1%」に設定されており、「マイナス金利政策」がとられています。したがって、これを反映して、住宅ローンの固定金利も低水準で推移しているということです。

 

なお、日本では、経済が停滞しているにもかかわらず、物価が上昇しているという状況が続いています。その主な原因は世界的な燃料価格の高騰と、円安によるものです。したがって、前述した伝統的な理論があてはまらないイレギュラーな状態に陥っています。

 

◆長期金利とは

これに対し、住宅ローンの固定金利に影響を与える「長期金利」は、銀行等の金融機関が1年以上、お金を貸し出す場合に適用される金利のことです。短期金利が日銀の政策によって決まるのに対し、長期金利は長期資金の需要と供給の関係によって決まります。

 

つまり、長期資金を借りたいという市場のニーズが増えれば長期金利は上昇し、逆に、ニーズが減れば長期金利は下落します。

 

そして、現在、長期金利が上昇しているため、これを反映して、住宅ローンの固定金利も引き上げられたということです。

 

◆長期金利が上がっても政策金利は「当面」上がらない

このように、現状、政策金利が「-0.1%」で推移しているのに対し、長期金利が上昇しているという違いがあり、それが変動金利と固定金利の違いに反映されています。では、なぜ、両者は異なる動きをしているのでしょうか。

 

前述したように、長期金利は、基本的に長期資金の需給関係によって決まります。したがって、従来、中央銀行(日銀)が長期金利を操作しようとする場合には、短期金利を操作し、それが長期金利にも波及するという形で、間接的に操作を行ってきました。

 

つまり、本来であれば、政策金利を引き下げれば、連動して長期金利も引き下げられることになります。

 

しかし、この方法だと、政策金利が「0%」や「マイナス」の場合には、長期金利を引き下げようとしても限界がきてしまいます。そこで編み出されたのが、日銀が「10年物国債」等の長期国債等の買い入れを行うことによって、長期金利を引き下げるという方法です。

 

実際、日銀は2013年4月から大規模な国債の買い入れを行っています。これがいわゆる「量的・質的金融緩和」です。

 

さらに日銀は、2016年1月から「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を行っています。つまり、政策金利を「マイナス」にし、かつ、国債を買い入れることで、長期金利を大きく引き下げる政策がとられてきたのです。いわゆる「イールドカーブ・コントロール」です。

 

ただし、日銀は最近になって政策を修正しました。2023年7月と10月に、「イールドカーブ・コントロール」で許容する長期金利の上限について、相次いで引き上げを行ったのです。これを受け、長期金利は0.9%台にまで上昇しています。これは、あくまでも国債の買い入れによる調整であり、政策金利は依然として-0.1%のままです。

 

したがって、現状では、長期金利の上昇は、政策金利と無関係ということになります。

 

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