固定金利が上がっても変動金利は「すぐには」上がらないが…
今回、大手4銀行が引き上げを行ったのは、住宅ローンの「10年固定型」の金利です。10月と比べ、みずほ銀行は0.1%引き上げて1.55%、三菱UFJ銀行は0.1%引き上げて1.04%、三井住友銀行は0.15%引き上げて1.29%に、りそな銀行は0.15%引き上げて1.80%となっています。
これに対し、「変動金利」については引き上げの動きはありません。むしろ昨今は、ネット銀行を中心として、変動金利を引き下げる動きもみられます。
なぜこのような差が出るのかというと、固定金利と変動金利の違いは、「政策金利(短期金利)」と「長期金利」の違いによるものだからです。変動金利は「政策金利」、固定金利は「長期金利」の影響を受けています。
そして、一口に「金利」といっても、「政策金利」と「長期金利」は明確に区別する必要があります。以下、説明します。
◆政策金利(短期金利)とは
まず、住宅ローンの変動金利に影響を与える「政策金利(短期金利)」について説明します。
政策金利は、中央銀行(日本では日銀)が一般の銀行に貸し出しを行う際の金利です。景気や物価を安定させるために、上げたり下げたりします。
伝統的な経済学の理論によると、景気が悪く物価が下がっている状況では、政策金利を低く抑えます。そうすると、銀行が人や企業に貸し出す金利が抑えられ、借りやすくなります。また、銀行に預金しておいても利息がつかないということで、株式等への投資が促進されます。これによって、景気を良くし、物価を上昇させる効果があるといわれます。
逆に、景気が良く物価が上昇している状況では、景気の過熱を抑えて「バブル」にならないようにするため、政策金利を引き上げます。
現在は、政策金利が「-0.1%」に設定されており、「マイナス金利政策」がとられています。したがって、これを反映して、住宅ローンの固定金利も低水準で推移しているということです。
なお、日本では、経済が停滞しているにもかかわらず、物価が上昇しているという状況が続いています。その主な原因は世界的な燃料価格の高騰と、円安によるものです。したがって、前述した伝統的な理論があてはまらないイレギュラーな状態に陥っています。
◆長期金利とは
これに対し、住宅ローンの固定金利に影響を与える「長期金利」は、銀行等の金融機関が1年以上、お金を貸し出す場合に適用される金利のことです。短期金利が日銀の政策によって決まるのに対し、長期金利は長期資金の需要と供給の関係によって決まります。
つまり、長期資金を借りたいという市場のニーズが増えれば長期金利は上昇し、逆に、ニーズが減れば長期金利は下落します。
そして、現在、長期金利が上昇しているため、これを反映して、住宅ローンの固定金利も引き上げられたということです。
◆長期金利が上がっても政策金利は「当面」上がらない
このように、現状、政策金利が「-0.1%」で推移しているのに対し、長期金利が上昇しているという違いがあり、それが変動金利と固定金利の違いに反映されています。では、なぜ、両者は異なる動きをしているのでしょうか。
前述したように、長期金利は、基本的に長期資金の需給関係によって決まります。したがって、従来、中央銀行(日銀)が長期金利を操作しようとする場合には、短期金利を操作し、それが長期金利にも波及するという形で、間接的に操作を行ってきました。
つまり、本来であれば、政策金利を引き下げれば、連動して長期金利も引き下げられることになります。
しかし、この方法だと、政策金利が「0%」や「マイナス」の場合には、長期金利を引き下げようとしても限界がきてしまいます。そこで編み出されたのが、日銀が「10年物国債」等の長期国債等の買い入れを行うことによって、長期金利を引き下げるという方法です。
実際、日銀は2013年4月から大規模な国債の買い入れを行っています。これがいわゆる「量的・質的金融緩和」です。
さらに日銀は、2016年1月から「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を行っています。つまり、政策金利を「マイナス」にし、かつ、国債を買い入れることで、長期金利を大きく引き下げる政策がとられてきたのです。いわゆる「イールドカーブ・コントロール」です。
ただし、日銀は最近になって政策を修正しました。2023年7月と10月に、「イールドカーブ・コントロール」で許容する長期金利の上限について、相次いで引き上げを行ったのです。これを受け、長期金利は0.9%台にまで上昇しています。これは、あくまでも国債の買い入れによる調整であり、政策金利は依然として-0.1%のままです。
したがって、現状では、長期金利の上昇は、政策金利と無関係ということになります。