社会保険制度を担う地方政府が抱える課題
社会保障制度において、中核をなすのは社会保険制度である。社会保険は運営上、その他の予算とは別枠で設けられた基金で財源が管理されている。2022年、財政からの基金への支出は合計2兆4,106元(46兆円)と2021年とほぼ同規模であった。そのうち、71.8%が年金関連である(図表6)。
最も多くを占めるのが都市の会社員向けの年金制度で31.0%を占め、次いで公務員向けで25.8%を占めた。加入者数を考えると公務員向け年金制度への財政からの支出は相対的に多く、制度間の受給格差も積年の課題である。今後も高齢者数は加速度的に増加することが見込まれており、制度の持続性を考えるのであれば財政支出のあり方も検討する必要があろう。
公的年金制度はその他の社会保険、社会保障制度と同様に地方政府が運営している。年金積立金についてはシステム上全国統合されたものの、制度の運営や負担・給付の基準などはこれまでと同様、地方政府が担っている状態にある。
年金積立金の統合により、高齢化が進んだ給付プレッシャーの高い地域と、余裕度の高い地域を全体で調整し、余裕のない地域の年金給付の安定化をはかることが可能となった。
しかし、保険料の徴収、給付の基準は制度内でも統合されておらず、未だ地域によって異なっている。特に給付については、当該地域のこれまでの平均給与を加味して算出するなど、給付における地域格差といった課題は残されたままとなっている。
加えて、2025年までに改革が予定されている、定年退職年齢(年金受給開始年齢)の引き上げ、年金積立金の運用改善、年金現価率の改定については大きな動きは見られない(※2)。特に、定年退職年齢の引き上げは受給が先延ばしされ、年金原価率の改定は1回の受給額が減額となってしまうため、これまでも検討には慎重な対応がとられてきた。
さらに、経済成長の先行きの不透明さもさることながら、昨今の不動産不況も改革に二の足を踏む要因となっている。それはこれまで値上がりを続けた不動産を老後保障の1つの手段として保有するケースが多いためである。
少子高齢化の進展、ベビーブーム世代の大量退職などからも改革は喫緊の課題であるが、政府としてはさらに身動きがとりにくい状況になりつつある。
※2:人力資源社会保障部「人力資源和社会保障事業発展“十四五”規画」、2021年6月発表。なお、定年退職年齢(年金受給開始年齢)の引き上げについては2022年3月から江蘇省など一部の地域で導入が開始されている。
杉原 杏璃 氏登壇!
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
(入場無料)今すぐ申し込む>>