他の先進国と比較して低水準に留まる日本の「開業率」
国や地域における経済活動の状況を測る指標の一つに、開業率と廃業率が挙げられる。
厚生労働省「雇用保険事業月報・年報」をもとに算出した値によれば(図表1)、全国の「事業所の開業率1」は、2007年まで上昇傾向で推移した後、リーマンショックの影響を受けて低下に転じた。その後は回復基調で推移していたが、2017年(5.6%)をピークに再び低下傾向に転じ、2022年(3.9%)は2000年以降で最も低い水準となった。
一方、「事業所の廃業率2」は、2009年(4.7%)をピークに長期的に低下傾向で推移し、2022年は3.3%となった。
事業所の開業率と廃業率の差(開業率-廃業率)は、オフィス床の需要を表す指標と考えられる。「開業率-廃業率」の値が拡大した時期は、事業所を開設する需要が高まる一方、「開業率-廃業率」の値が縮小した時期は、事務所を開設する需要が後退(事業所を閉鎖する可能性が高まる)と捉えることができる。
東京の「開業率-廃業率」と「オフィス空室率」の関係をみると、「開業率-廃業率」が拡大した時期は空室率が低下し、縮小した時期は空室率が上昇したことが確認できる。両指標の相関係数(2000年~2022年)はマイナス0.64と、負の相関関係が認められる(図表2)。
全国の「開業率-廃業率」は、プラスとマイナスを繰り返す一進一退の動きで推移した後、2010年以降拡大傾向で推移した。
その後、開業率低下の影響を受け、2017年をピークに縮小傾向に転じ、2022年は0.6%となった(図表1)。また、「開業率-廃業率」を都道府県別にみると(図表3)、ピーク時の2017年は「マイナス」(廃業率が開業率を上回った)の都道府県数は「5」に過ぎなかったが、2022年は「15」と大幅に増加した。
これらの都道府県ではオフィス床の需要が大きく後退したことが示唆される。
経済産業省「中小企業白書」によれば、主要先進国の開業率は、アメリカが9.3%(2020年)、イギリスが12.4%(2021年)、フランスが11.3%(2020年)、ドイツが7.2%(2020年)となっている。
日本の開業率は、他の先進国と比較して低水準に留まっている。こうした状況を踏まえて、政府は「スタートアップ育成5か年計画」を2022年11月に策定し、各地方自治体も、創業者向け補助金・給付金3等を通じて創業支援に乗り出している。
開業率の上昇は、企業の新規参入等に伴う企業間競争の促進や技術革新等により、国や地域の経済成長を高める効果を持つと考えられる。
今後、政府や各地方自治体の創業支援が効果を発揮し、開業率の上昇に寄与することが期待される。オフィスビル投資を考える上でも、事業所の開業および廃業の動向を確認するとともに、創業支援の取り組みやその効果を注視したい。
1 当該年度に雇用関係が新規に成立した事業所数÷前年度末の雇用保険適用事業所数
2 当該年度に雇用関係が消滅した事業所数÷前年度末の雇用保険適用事業所数
3 地方自治体による創業者向け補助金・給付金は1,033件(中小企業基盤整備機構ポータルサイト「J-Net21」への掲載事例・2023年8月末時点)
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