多様化する夫婦関係
夫婦の在り方や暮らし方が変化しています。「子育てが終わってからは夫婦水入らずゆったりと過ごす」というような老後の暮らし方は、すでに過去のものなのかもしれません。
厚生労働省の人口動態調査によると、2022年の婚姻件数は51万9,823件、離婚件数は約17万9,099件です。離婚件数17万9,099件の数字を婚姻件数の51万9,823件で割ると、34.4%という高い割合になります。
2022年の離婚件数は、これまでに結婚してきた夫婦が離婚している件数ですので、結婚した人の34.4%が離婚しているとは一概にいえません。それでも、52万件の新婚夫婦が誕生している2022年に、別れを選ぶ夫婦が18万件という数字は、結婚生活は必ずしも続くものではないという実態をリアルに表している数字といえるでしょう。
さらに、厚生労働省の発表によると、2020年に離婚した夫婦のうち、20年以上同居した「熟年離婚」の割合が21.5%となっています。これは、統計が存在する1947年以降で過去最高の数字です。ここからいえるのは、結婚生活の長さは関係なく、20年以上連れ添った夫婦でも、なにかがきっかけで別れを選ぶ可能性は十分にあるということです。
さらには「選択的夫婦別姓」「選択的夫婦別居」という考え方もあります。夫婦ではあるが名字や住まいは別々ということも選択肢に含まれるようになってきました。これまで一般的と考えられてきた夫婦像が変化し、時代とともに結婚に対する考え方が多様化しているように思います。
ここからは、夫婦ではあるけれど別居することを選んだAさんとBさんの事例をみていきます。
かつてはおしどり夫婦と呼ばれたが…「熟年別居」を選んだ妻
Aさんは、20代のころ建築事務所で勤務していました。何度か資格試験に失敗したものの、30代を前にして資格試験に合格、その後自らの希望もあり退職して独立を果たします。このころ大学生のときからお付き合いをしていた同い年のBさんと結婚して、一人娘にも恵まれました。
建築事務所の事業は苦労が多くも、持ち前のフットワークを生かして、順調に仕事の範囲を広げていきます。奥さんとなったBさんもパートの仕事を辞めて、Aさんの事務所を手伝い始めました。夫婦二人三脚での奮闘ぶりに、周囲からは「2人はいつも一緒でおしどり夫婦ね」と評判でした。一人娘はその後順調に成長して、18歳で大学に入学し、東京での下宿生活を始めます。
とても順調な家庭に見えたのですが、実は夫婦関係は微妙でした。口数が決して多くない職人気質のAさん。仕事を手伝うBさんは、日常会話を普通に楽しみたいタイプですが、Aさんに話しかけると、Aさんは仕事のことに集中しているためか不機嫌な顔をします。そのような顔をされると、Bさんとしても話す気持ちが失せてしまいます。
AさんからBさんに発する言葉は、仕事中の「この書類一次チェックしておいて」「手続きに必要な書類を依頼しておいて」という事務的な投げかけばかり。仕事への指示としては正確で、問題ないようなのですが、Bさんが求めているのは仕事の役割や機能としての会話ではなく、心通う夫婦の会話だったのです。
仕事のこともあり、周りへの体裁を整えていたBさんですが、仕事でも家でもずっと一緒にいることに疲れと違和感を覚えていました。
輝く娘の姿に感化され、妻の決意は固まる
成長した一人娘は東京で下宿生活をしながら、自立して自分の夢を追いかけています。50歳を迎えたBさんは、そんな娘の姿を見ていると、だんだんと自分にも自分の人生があるのではないかと思い始めます。とはいえ、離婚という決断は重すぎるとも感じていたのでした。
Bさんも仕事への責任感があります。そのころ事業規模は年間売上が5,000万円ほどに成長し、長らく2人の社員が勤めてくれていたので、仕事への影響は最低限にしたいと考えていました。
そこでBさんが出した答えが「別居」という選択です。決して簡単な決断ではなかったものの、このままではずるずると時間が過ぎ去るだけです。Bさんも覚悟を決めて、Aさんに別居したいという気持ちを伝えました。
案の定、AさんはBさんからの提案に困惑と怒りすらも覚えました。「そんなこというなら離婚だ!」とも内心思いましたが、仕事が立ち行かなくなるのはさらに困ります。なんとか一緒に暮らす道を模索できないかと思案したのですが、別居したいというBさんの意志には固いものがありました。
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