※画像はイメージです/PIXTA

2019年10月、お笑い芸人の徳井義実氏(チュートリアル)が「7年間で約1億2,000万円の申告漏れ指摘された」として、話題になりました。この時期、“元マルサの税理士兼僧侶”という異色の経歴を持つ上田二郎氏は、自身への取材を含めた一部の週刊誌報道に怒りを覚えたといいます。いったいなぜなのか……「脱税」と「申告漏れ」の違いなど、税務の視点からみていきましょう。

無申告脱税犯とチュートリアル徳井氏

2019年、チュートリアル徳井氏が7年間で計約1億2,000万円の申告漏れを指摘された際、とある週刊誌から「マルサは強制調査をするのか」との取材を受けた。

 

筆者は「当局の対応にも問題がある。無申告だから悪質ではあるが、マルサは絶対に動かない」と答え、才能ある芸人さんを追い込む記事にしないことを条件に取材に応じた。

 

筆者が週刊誌に掲載を了承したのは「徳井氏は一見すると『バレ元』のように思えるが違う。マルサが動くほど悪質ではない」だったのだが、週刊誌は筆者の意思に反して

 

「徳井氏の手法は『バレ元スキーム』のように見えます。バレて元々と考え、もし税務署にバレたら支払えばいいという認識に基づいて一切の申告をしない、風俗産業などで幅広く蔓延している悪質な手法です」

 

と報じた。

 

税法の隙をついて“あえて”知らんぷり

脱税犯が成立するには「脱税の意図」が重要なカギになる。脱税の意図は正しい元帳があればすぐに分かる。売上が漏れていればその原因を解明し、経費なら正規の支払だったのかを判断すれば良いのだが、無申告の場合にそれを推しはかることは難しい。

 

帳簿がなければ収入や経費のすべてを解明して所得(利益)を確定する作業が必要になる。調査に大きな手間がかかるため、無申告加算税(15%)を過少申告加算税(10%)より割高にしている。

 

「バレ元」は税法の隙をつき、文字どおり申告をほったらかす。法人税は5年間しか調査できないが、申告に仮装、隠ぺい行為があると租税時効の限界(7年間)までさかのぼって調査をする。

 

無申告なら経理をする必要がないため、売上除外や架空経費の計上などの不正経理をする必要がなく、申告を逃れるための行為(他人名義での営業など)がなければ調査は5年間で終わる。

 

「バレ元」は調査年分と加算税にメリットがある。不正計算をすると7年間の調査と重加算税(35%)の賦課だが、ほっかむり(無申告)をしていれば調査は5年間しかできないばかりか、無申告加算税(15%)で済む。

 

さらに延滞税の計算も大きく違うことに加え、社会保険料の徴収は2年間しか遡らないため、悪さ(仮装、隠ぺい)をした申告に比べて発覚した場合の追徴額が圧倒的に小さい。

 

そもそも単純無申告は、租税教育が行き届かなかった時代に“申告義務を知らなかった者”の行為だ。それでも申告納税制度下において、無申告を過少申告より重い罰則にしている。

 

ところが申告をしたものの、仮装、隠ぺい行為によって税額を不当に下げたケースに比べ、単純な無申告を装って(バレ元)申告を免れたほうが調査年分の遡及が短く、加算税や延滞税も軽くなるところに税法の隙があった(現在は無申告の額に応じ、無申告加算税が15%・20%・30%に段階的にアップするように改正された)。

 

背景には税務職員の不足があって、調査率が低い現状では摘発される確率が低く、帳簿がなければ追徴税額は話し合いで決まる。しかも、証拠を廃棄してしまえば脱税額の100%を持っていかれることもなく、税理士報酬も必要ないとうそぶく輩もいる。

 

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