景気が循環する理由、経済学の教科書の説明は「時代遅れ」で…
経済学の教科書には「在庫循環」という言葉が出てきます。
「景気がよくなると企業は増産するが、そのうちに増産が行き過ぎて、過多になった在庫を減らすために減産する。減産によって景気が悪化するが、減産によって在庫が減りすぎると、過小になった在庫を元に戻すために増産するので、景気は再び回復する」
といったものです。
かつて、製造業が経済の主要な部分を占め、かつ在庫管理技術が未熟だったころには、在庫循環が存在したのでしょうが、現在ではサービス業が経済の中心ですし、在庫管理技術も進歩していますから、在庫変動が景気循環を生み出すことは考えにくいでしょう。
「設備投資循環」というのもあります。
「景気がよくなると各社が一斉に新工場を建て、10年経つとそれが古くなるので各社が一斉に設備を建て替える。それによって、10年に一度景気がよくなる」
といったものです。
しかし、いまではコンピュータ関係のように更新投資の期間が短いものも多いので、設備投資が景気循環を生み出すことは考えにくいでしょう。
「建設投資循環」に関しても、構造物が多様化しているので、景気循環を生み出すとは考えにくいです。「コンドラチェフの波」については、筆者は学生時代以降、一度もメカニズムを理解したことがありません(笑)。
現在では、せいぜい好況期に在庫や設備が増えすぎることが次の不況を深刻化する、といった程度でしょう。
なぜ景気は「自分で方向を変えない」のか?
在庫循環などを考えないでよいならば、景気は自分では方向を変えません。景気が回復しつつあるときはそのまま回復を続け、後退しつつあるときはそのまま後退を続けます。
景気が回復しているときには、物(財およびサービス、以下同様)が売れるので企業が増産します。そのために労働者を雇うと、新しく雇われた労働者が給料をもらって物を買うため、一層物が売れるようになるのです。
企業が増産のために工場を建てれば、鉄やセメントや設備機械などの需要が増え、景気が一層よくなります。設備投資資金は銀行が喜んで貸してくれるでしょう。景気がよいときは借り手企業が黒字だからです。
サラリーマンも、ボーナスが増えれば消費が増えるでしょうし、加えて勤務先が倒産したりリストラされたりする恐怖を感じなくなるため、さらに財布のヒモが緩むかもしれません。
地方公共団体は、景気がよくなって税収が増えると、それまでガマンしていた公園建設等が行えるようになるので、一層景気を押し上げる力として働くでしょう。
こうして、景気は一度上を向くとそのまま拡大を続けるわけですが、反対に一度下を向くとそのまま悪化を続けることは当然ですね。
景気が自分では方向を変えないことから、景気のプロたちは「方向」を大切に考えます。そこで、一般の人が景気の「水準」を大事にするのと、ズレが生じる場合があります。
政府は「景気回復宣言」というものを出すことがありますが、これは「景気の方向が上を向きはじめた」という宣言です。昨日まで下向きだったのが今日からは上向だ、ということは、水準としては昨日が最悪で、今日が最悪から2番目ですね。したがって、政府の景気回復宣言を聞いた一般の人々は「政府はまったくわかってない。景気は全然よくないぞ!」と思うわけです。
重病人が一命を取り留めて高熱も下がり、ベッドで寝ているとお医者様が「死なずにすみましたね。無理をしなければいつかは退院できますよ」と言ったとします。「先生、私は全然元気じゃありません」と怒る患者はあまりいないでしょうが、景気に関しては違うのですね(笑)。
景気の方向を変えるのは「外からの力」、そして「財政金融政策」
景気が自分では方向を変えないとすると、景気の方向を変えるのは「外からの力」だということになります。米国発のリーマン・ショックで国内の景気が酷く悪化したわけですが、小型のリーマン・ショック的なもので国内の景気が変動することも珍しくありません。
新型コロナで景気が悪化したことも思い出されますし、バブル崩壊とそれに続く金融危機で景気が悪化したことを覚えている読者も多いでしょう。
政府日銀が景気をコントロールしていることも重要です。政府は公共投資や減税などで景気を回復させようとします。これを財政政策と呼びます。日銀は金利を上げたり下げたりして景気をコントロールしようとします。これを金融政策と呼びます。
景気が悪いときは、財政政策も金融政策も景気を回復させようと頑張ります。日本では最近起きていませんが、景気が過熱してインフレが心配なときは、政府日銀が景気をわざと悪化させてインフレを抑えようとすることもあります。
財政金融政策については、別の機会に詳述することにしましょう。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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